#97 鍵番号と謎の暗号
「はあ、酷い目に遭った……」
半日の間オルフィアに拘束されたアルは、ようやく自室まで帰ってこられた。
すっかり昼食の時間帯だが、混んでいるのは避けたかったので少しの間でも工作の続きをしようと必要な道具を取ろうと物置部屋へ入ろうとした時だった。
扉の隙間に紙が挿されているのを目にする。
「まーたお姉さんか? とりあえず慎重に鍵を開けて……」
がちっ、がちっ。
アルは紙を無視して、静かに鍵のダイヤルを回してみるが開錠しない。
「開けるだけじゃなく番号を変えていきやがった……ならこれは」
生年月日を設定した鍵番号から単純にひっくり返しただけなので、それもまた簡単に突破されていた。
きっとその注意を書かれているのだとうんざりしながら紙を抜いてその内容を見る。
* * *
・ ♡×♡×♡=♢
・ ♡×△ =♧♢
・ ♧+△ =♧□
番号:△♢♢□
※入れるときはこれを半回転させる
* * *
暗号を見たアルは犯人のことをざっと想像した。
「この筆跡はコトハだな。それで、これを考えてたから夜更かししたと。はー……」
アルはため息をつきながら、2と3けた目のダイヤルを『8』に合わせる。
「……2けたならちょっと時間かければ総当たりでよくね?」
残った『00』に揃っているダイヤルを見たところでもっともな考えが頭をよぎった。
しかし不要なところで対抗心が燃えてしまう。
「負けた気がするし解いてやるか」
自室に戻ってソファに腰掛けると暗号を改めて確認する。
『♡×♡×♡=♢』
「まずはこれ……3乗した値が1けたになる数字は0、1、2の3つ。で、計算結果が変わってるのなら、『2×2×2=8』で、♡=2、♢=8だもんな」
鍵番号が答えであるため、記号はそれぞれ0から9のうちのいずれかが割り振られている。
そう気づいたアルは計算式をひとつずつ解いていく。
『♡×△=♧♢』
「記号を判明してる数字に変換して、『2×△=♧8』。0から9のうち、2をかけて『10以上』かつ『1けた目が8』になるのは……『9』しかない」
『2×9=18』
「になるから、△=9、♧=1だな」
順調に解読を進め、最後の計算式に移る。
『♧+△=♧□』
「これも変換して……『1+9=1□』。□=0か。これでよし。開けさせてもらうか」
達成感を得たアルは実際にダイヤル錠にその番号を入れた。
「『△♢♢□』を数字に変換で『9880』、指示通りそれを反転させれば『0889』! ……え、あれれ……?」
開錠に失敗したアルは首を傾げて腕を組まざるを得なかった。
そして異常の原因を推理する。
「そういえば絵札で『♤』だけが使われてないが……うーん、なら『△』か『□』が怪しい」
絵札のうちで欠けていた『♤』に謎があると疑い、答えを眺めていたアルはふと違和感に気づいた。
「答えも結局は絵札は『♢』しか使われてない。これでないといけなかったのか? ……他の絵札と互換できないとしたら……反転の指示……あっ」
アルは純粋に、指示の通り暗号の紙をひっくり返した。
「『♢』の絵札だけは上下を変えても変化が無い。『□』もだ。けど『△』は『▽』になる! つまり……」
上下をひっくり返しても形の変わらない『♢』と『□』に、それぞれ『8』と『0』があてられていたのに気づいてアルはくすっとした。
「『△♢♢□』は『9880』、それを回転させて反転で『0886』だ! 『△』、『♢』、『□』は上下を変えても数字として通用するものがあてられてたんだな」
数字をひっくり返すしかけに気づいたアルは『9』を『6』に変換。
ダイヤルを合わせて開錠に成功したのであった。