あの日の出来事4
私は隣国との境目の、リザルト帝国の正面にある、『主大門』と呼ばれるところの近くまで来て、身を潜めた。
リザルド帝国は帝国をぐるっと周る形で一周、石の壁で囲まれている。 その壁の高さは10メートル。 この壁で侵入者を防いでいた。
と、言ってもそれは大昔の話。
すっかり平和となったこの時代には侵入者など滅多にいない。
主大門には名の通り大きな門が一つあり、そこには何人もの門番がいるだけである。 ここから他国の者は入るようになっていた。
リザルト帝国から出入りする者は通行証明書を持った、貴族、商人やその使いのものぐらいで、一般の人はそうそう国外に出ることはない。 門番のチェックを受けて出入する。
門番は出入国に関わる事務的な仕事も同時にこなしているため、いつも忙しそうにしている印象があった。
さて、今の時間はちょうどお祭りへの追加の輸入品が隣国から運ばれてきたかのようで、少しの列を作っていた。 門番たちは忙しそうにしている。 私は壁の上へ飛び、降り立つ。
予想通り、誰もいない。
前々から気になっていたが、ここの警備はいつも甘い。 確かにこの壁の高さなら普通の人間には難しいけど、私みたいな魔術師や悪魔や魔物が襲ってきたらどうするのだろうか? この国を立ち去ろうとしている私にとっては関係のないことだが。
壁の上からふと、リザルド帝国側を見る。
祭りの光が色々な色の光…キラキラ輝き、まるで宝石箱のようだった。
…今日でこの国ともお別れ。
私はこの国で幸せだったのだろうか。 今まで積み上げてきたものは壊れてしまったのだから今は幸せとは言い難いのかもしれない。
そして、この国を捨てる。
「さて…」
私は小さな声で歌い、リザルト帝国とは逆の方へ飛び出した。
チクッ
とても体と心が痛い。
でも、もう、後悔はしない。
これでいい。
自分に言い聞かせて私は飛ぶ。
いざ、ナーヤハ大国へ!!!
その翌日のこと、リザルト帝国。
ガシュ歴40年3日
『ヤード様に見染められた平民の姫、誕生』
帝国中の新聞はこのような見出しが出回った。
帝国中の平民は皆、
「ヤード様は帝国民をよく見ているもんだ!」
「さすがだ!」
と褒めちぎる。
アルファド・ラシュザは思う。
くだらない。
そして、同時に帝国の建物が破壊されたことを書いてない記事に違和感を持ち、その新聞を握りつぶしたのであった。