あのお店、開店です 16
「止まれ! 静かに!」
ガイオ殿に言われて止まる。
何事かと思い、曲がり角をそっと覗いてみると人が数人いるのがわかった。
あの服は第一騎士団の服。 そして、白いフードを被ったもの。 アイツは何者なのか?
耳を澄ませていたらとんでもない会話が聞こえてきた。
「おい! あの店、どうなってるんだ!」
「し、知らない… 燃やしたはず。 だけど燃えてない。」
「お前、魔術師だろ! 魔法で燃やせよ!」
「燃やした、燃やしたんだ…。 その場をすぐ離れた。 しかし、燃えてない。 相手。 力が上。」
「…あの店の奴らは何者なんだよ!」
アイツらがナナの店に放火しようとした犯人か! 俺が出て行こうとしたらジャコモに腕を掴まれた。 力が強いので痛い。
「ちょっと冷静に」
小声でジャコモが言う。
「…まぁいい。 あの店は見張りでもつけて怪しかったら不敬罪でひっ捕らえればいい。 所詮、外国人だ。 いくらでも証拠は作れる。 ところで魔術師、あの研究はどうなってる?」
「…順調。 でもあと3人くらいで試したい。 今見せてやろうか?」
「あぁ。」
腹が立つ会話と、意味のわからない会話をしている数人を静かに見守る。
これから何か起こるようだ。
見ていると布にぐるぐる巻にされた何か大きいものが運ばれてきた。 そのぐるぐる巻かれたものは動いている。 バタバタと暴れていた。
魔術師は黒いもやを発生させた。 結界というやつだろうか? 巻かれたものは余計に暴れ出した。 そして、何かを唱える魔術師。 どんどん膨れ上がる巻かれた布。
「ぅゔゔゔぅぅ…」
布からうめき声が聞こえてきた。 そして、布がばん!と破裂した。
「えっ…」
思わず声が漏れてしまい、俺は自分の口を押さえた。
破裂した布から魔物が出てきたのだ。
「お前ら、静かに離れるぞ。」
ガイオ殿が小声で話しかけてきた。
俺たちはそれに従う。 急いでその場を離れなければならない気がした。
ガイオ殿は最初は静かに移動していたが、完璧に離れると走りだした。 私達はそれについて行く。
気づけば街のほうへ出ていた。
「ジャコモ…あれは何だ!」
俺はジャコモに聞く。
ジャコモは無言でガイオ殿の方を見る。
「流石にあれは知らない。 言えることは…あれは人間を魔物に変えていた、という事。 あぁ…何という事だ。」
ガイオ殿は膝から崩れ落ちた。 ジャコモもその場で頭を抱える。
ジャコモにとっても想定外であったようだ。
「一度ナナに相談してみよう。」
「…いや、これはナナの案件ではない。 ハウルド・ナーハヤ大王に謁見してくる。」
「あぁ、それがいい。」
ジャコモが答え、ガイオ殿が賛同する。
「…ジャコモ、ここは私にいかせてもらえないか? どうせ追われている身。 お前らはいなくなっては不自然だからな。」
「わかりました。 お願いします。 準備等はこちらからしておきます。」
「頼んだ。 ついでに…」
「分かってます。」
「助かる。」
「アル、お前は今見たことは誰にも話すなよ。 これは3人だけの秘密だ。」
ジャコモが言う。 俺はうなづいた。