あの懐かしの故郷へ 6
「…しかし問題が起きた。」
「問題ですか? お父様。」
「あぁ… 昨日、酒屋で情報収集していたからある程度のことは想定出来ていると思う。 王と王妃が、あの娘に夢中になり、人が変わった。 ナーナのことはすっかり忘れているようだったよ。 …もしかして本当に忘れているかもしれないな。 だから大魔術師を探し出そうとしている。」
「どうしてそこで大魔術師が出てくるんですか?」
「10年後の取り決めには魔物の結界の件もあるんだ。 マリアの結界が切れるその時にもう一度結界をナーナに張ってもらう。 しかし、わざわざ大魔術師を呼ぶということは結界の件を完全に忘れている可能性が高い。ナーナを呼び寄せて頼めばよかったからな。」
「…あれは叔父さんの独断ではなかったのね。 リザルト帝国王族も結界の件を把握していたとは思わなかったわ。」
「結界のことを知っているのは国内では王族とマジュク家のみだ。 だから手元に結界が張れるナーナを第二王妃にという考えもあり、婚約が進んだのだよ。しかし、王族がそのことを忘れているとしたらマジュク家のみとなる。 …知らぬ間に結界護りの家となっていたという訳だな。」
お父様の話を聞いて色々と腑に落ちたところがあった。 それにしても、あの商人出の元男爵令嬢、何者なのかしら? 怪しさしかないわね。
「お父様、例の令嬢のこと、詳しく…」
「それは私の仕事ではない! ジャコモ君に調べさせているから大丈夫だ! 後でみんなでラシュザ家に行こう! …でもナーナはこれからどこで寝泊まりするんだい?」
「…このままここにいてもいいかな?と…」
「絶対ダメ! こんな狭ーい一般的な家にだなんて… ナーナ、親はね、子供には苦労をさせたくないんだよ。 だから…」
「あ、お父様、大丈夫です。」
私は人差し指を天井にあげて、指をくるりと回す。
そうすると部屋が一瞬にして広くなったのだ。
「ふぇっ…ナーナ、歌わないのか?? あー、何ということだ! あの歌いながら魔法をかける姿がまた可愛らしいというのに!!」
「…いや、もう、こうすれば魔法はかけられるようになりましたし… あと、音痴らしいので…」
「何を言ってるんだ!! その音痴なところがまた可愛らしいんじゃないかっ!!」
…なるほど。 私が自分で音痴だと気付かなかったのは歌うとお父様がとてつもなく褒めてくれてたからだ。「世界一の歌姫だ!」なんて言ってたわ。 だから私は歌が上手いだなんて思い込んでいたのよ! 親バカ、本当に危険!! 事実を教えること、大切!!
「この魔法は空間を拡大する魔法だな。 マリアもたまに使っていたな。」
「お母様が?」
「ああ、部屋…とはいかないが、宝石箱にかけてたよ。 お陰で内緒でどんどん買ってた宝飾類に気付かなくてな… 小さな宝石箱しか持ってないものだからまさかあんなに買い込んでいたなんて。 血筋だなぁ。」
「いや、私、宝飾類には興味が。」
「そっちでない。 魔法の才能の話だ。」
魔法の才能がお母様の血筋と言われるのは正直嬉しい。 しかし、これは精霊の祝福だから、本来の私の力ではない。 元々の私の魔法の才能は親戚と比べると大したことないから。 私はずっとそのことが心の奥底に引っかかっているのだ。