あの大魔術師の秘密と現状 6
さて、部屋の状態を整理しよう。
私は真ん中のソファでどすっと座っている。 膝には可愛い、マイ・スイート・エンジェル・リリー。
左ではノーツの治療が終わったニールサが、次は叔父さんの肩に手を当てている。 こちらも気持ちよさそう… ちょっと羨ましくなってきた。
ノーツはその隣でハリーに入れてもらったお茶を優雅に飲む。
そして私の向かいで、アルがずっと姿勢よく立っているのであった。 …あんた、騎士の鏡だよ。 流石にハリーに何度も席を勧められてようやく座ったかと思えば場が収まるのを静かに待っていた。
「ナーナちゃん、ちょっと、この子凄いね! ナーナちゃんもやってもらったら!?」
叔父さん、ニールサの治療が相当気に入ったらしい。
「いや、ナナ、やめとけ。 そいつに触られるなんて!」
突然、アルが声を出してきた。
「あ、大丈夫っす。 50センチ離すんで。」
ニールサは軽く言葉を返した。
よくよくニールサの手のひらを見ると、魔法陣が刻み込まれていた。
つまり、ニールサは人に手をかざせば悪いところがわかり、治癒が出来、人と握手をすれば属性などが分かると言う訳だ。
離れた場所でこちらを見ながらさすがと言わんばかりにハリーが拍手してきた。
…お願い、怖いから、私の心の中、見ないで。
ニールサは私の背中全体に向けて手のひらを飾す。
「ひいっっっ!!!」
ニールサが突然叫んだ。
私はそこで魔法をかけてニールサの口を塞ぐ。 この子、本当に凄いわね。 私の秘密に気付くなんて。 私は他の人には見えないように、自分の口に人差し指を当てて、ニールサに秘密を強要する。
「ニールサ、どうしたんだ?」
アルがニールサにかけよる。
「い、いやぁ。 魔力強すぎて… 何でもないです。 ナナージュ大魔術師様、気の流れだけ整えておきます。」
ニールサは青くなりながら治療してくれた。 何だか申し訳ないことしたわね。 にしても、腕のいいこと。
叔父さんとノーツはだらだらとお茶を飲んでいる。 この2人、ここにいて大丈夫なんだろうか??
そう思った時、ハリーが私に水晶玉を手渡した。
「ユリア様〜! クロエ様!」
ハリーが呼びかける。
『ナーナちゃん!! ハリーちゃん!! リリーちゃん!』
水晶玉の向こうから声がした。
「ユリアっ!!」
叔父さんの目が丸くなる。
「クロエっ!!」
ノーツの目も丸くなる。
ユリア様とは叔父さんの奥様。 つまり、ユリア王妃である。 クロエ様はノーツの奥様である。
「はい、ユリア様、クロエ様に3週間前にお二人の逃避グセを相談されまして、こちらに通信機を置かせていただくと同時に、ハウルド様とノーツ様に先ほど印を結ばせて頂き、お二人にいつも居場所がわかるように魔法陣を刻ませて頂きました。」
これにはこの場にいた一同驚く。 私も知らなかった。 水晶玉の向こう2人だけが優雅に微笑んでいる。
『あなた、仕事を放棄して何をやっているのかしら?』
『ノーツ様も私とのお茶会、約束しましたわよね?』
叔父さんとノーツの顔が青くなる。
そして魔法陣を使い、そそくさと帰っていった。
「なるほど〜。 さっきハリー君がやけに近いところで治療見てくるなぁって思っていたけど、その時に魔法陣を刻み込んだんだね!」
ニールサがハリーに話しかける。
「その通りです。 でも安心してください。 ニールサ様が心配なさるように悪用できないよう、あの2人しか使えないように処置してありますから。」
「あ、そこまで読まれてるのね。 ハリー君、怖いな。」