あの日の出来事
今日をもって成人する私、公爵家の娘、ナナージュ・マジュクは最初は浮かれていたわ。
いつも以上に宝石が散りばめられ目がチカチカになるドレス。 私の長くストレートな黒髪に生えるようにと真っ赤なドレスにした。
そして体の形がわかるほどに大人びたぴっちりとしたデザインは私のスタイリッシュな体型を見せつける。大胆に背中の空いたそのデザインは、寂しい胸をカバー。
…くれぐれも貧乳でなく、寂しいのです。
深いスリットの入ったドレスから出る足は歩くたびに学園中の男たちの視線が集まる。
友人達とも話に花が咲く…その楽しさしかない空気に酔っていたのね。
今日は私の婚約者であるリカルド帝国第2王子のヤード様とパーティーの後半に、ダンスを踊って、そして正式な婚約式を皆の前で挙げる手立てになっていた。
私ももう、立派な大人である。
人一倍自立したい気持ちが強かった私にとってはこんな嬉しいことはないのだ。
お父様も喜んでくれるであろう。
しかし、その手立ては間違っていたらしい。
「私、ヤードはこの愛しのレディと結婚しようと思う!」
そしてレディの手を取っていた。
その手は私ではない。
ヤード様の手を取っていたのは、大きな胸にふわっとしたピンクのふりふりっとしたドレス。 髪も金色のふわふわの綿飴みたいな女子。
なにあれ、可愛さの塊かしら。
あの商人から男爵になったという家柄の可愛いお嬢さんである。
「はっ??」
思わず声が出た。 いけない。
口元を扇子で隠す。
「すまん、ナナージュ。 そなたは完璧であるが、可愛さがない。 お前を見てると疲れてしまうのだ。 顔がきついからかな。 …あと、こう、大人びているのに寂しいところも。 な?」
…こいつはどさくさに紛れて何、人の貧乳をデスっているのであろうか。 頭のネジが10本ぐらいなくなっているかもしれない。
「ヤード様、つまり、私と、『婚約解消』したいと?」
私が尋ねると
「そもそも親に決められたものではないか。自分のことは自分で決める。婚約解消する言葉すらおかしいと思わないか?」
私はめまいがした。
これまでの思い出が走馬灯のように蘇る。