あの大魔術師の秘密と現状 3
「師匠! 変な気配がっ!」
バンンッとドアを開けてハリーが入ってきた。
「ハリー、ナイスタイミング! この精霊、死んじゃってるから不安定なの。 安定させるからこの部屋に結界を張って、中の浄化した空気も結界の外に出して!」
「えっ…わ、わかった。」
ハリーが結界を張ると水色のモヤは水色の髪の長い精霊へと変化した。 ぼやけたままなのは仕方ない。 死んでいるので。
『アァ…ワタシノムスメ、タスケテ… ヒガシノムラ…トラワレ…シロイカミ』
「あなたの娘さんは誰かに捕まっているのね? 私達が助ければいいのね?」
『アァ…タスケテ…ムスメ…タスケ』
「師匠、ごめんなさいっ、もう、結界がもたないっ…」
バァァン!
幽霊の精霊が破裂した。 もう、形も意識もない。
「ハリー、ありがとう。 浄化した空気を外に出した状態で結界が出来ること自体素晴らしいことだから気にしないで。 それにあの幽霊の精霊の意図もわかったわ。」
「師匠、あの、精霊の娘を助ける気ですか?」
「…だって、死んでまで自分の娘を思っているのよ。 誰かが助けないと精霊の魂も救われない。 そんなの、悲しすぎるでしょ? 明日、行ってみましょう。」
翌日、私とハリーは東の方向へ歩き、村という村を調査した。 最初の村、次の村と全く見つからなかったが、3つ目の村で見つけた。
色々聞き込んでいたら、その村の村長が最近、羽振りがいいらしいということを聞きつけた。 ギャンブルが毎回大当たり。 そんなことは確率的にみても不可能なのである。
「なーんかきな臭いわね。 ハリーは村長をもっと調べて。 私は上空から見てみるわ。」
私は空を飛びつつ、怪しそうなところをみた。 気になったのは1カ所のみ。 必要以上に魔法防御がかけられている小屋があった。
ハリーは村長が使用人も家族も近づけさせない場所があることをつきとめた。 そこは例の魔法防御がかけられた小屋である。
「師匠、またちゃっちい魔法防御ですね。 あれぐらいなら無効化できますよ。」
知ってます。
その日の夜、私達は早速侵入。 正直、私達にかかれば全然問題ない。 小屋を開けると中には、魔法のかかった首輪をつけられた女の子が眠っていた。 3歳ぐらいで、白い髪。 顔立ちがあの幽霊の精霊に似ている気がした。
…間違いない、あの子が精霊の子供だ。
「…ハリー、ここの村長、殺してきて…」
「師匠、気持ちはわかりますがそれはダメです。 村も機能しなくなりますし、クズでも誰かの大切な人なんですよ。 懲らしめればいいんですよ?」
ニコッとハリーが笑った。
翌日の朝、村長が真っ白な顔に青白い顔で私達と女の子に謝っていた。 ハリー、何をしたんだろう……
村長が言うには、ある精霊はこの村の青年と愛し合っていた。 愛し合うだけならまだしも、子供を設けたのである。 村の泉の端に静かに暮らしていたのだが、魔物が襲ってきて子供を守って2人とも死んだらしい。 村長が偶然見つけ出し、同情で内緒で小屋で育てていた。 そのうち、少女には未来予知が出来る能力があるのに気づいたので、ギャンブルに手を出してしまったのだと。 …欲が人間をダメにした例だ。
でもこの村長も元々はいい人間なのだろう。 その証拠に首輪はつけられていたが、清潔が保たれていたし、食事も十分与えられた。部屋の端には絵本もあった。 ハリーの言う通り、殺さなくてよかったわぁ…
「ほ、本当にすみませんでした。 あのー、魔術師様とお見受けします。 どうか、この子を連れて行ってもらえませんか? また欲を出しそうですし、何より、その子、6歳ぐらいのはずですがいくら食事を与えても成長しないんです。 どうか連れて行ってやってください。」
私達は了承した。 そうして、また、可愛い家族が増えたのだ。
私はリリーと名前をあげて、家への帰り道にクマのぬいぐるみをリリーと一緒に選び、買ったのだ。