あの弟子は何を考える 3
「お茶です。 どうぞ、お姉さん。 体が温まりますよ。」
先程の女性を中にいれ、ソファに座らせてお茶をお出ししました。
「…ありがとう。」
女性は体を震えながらお茶を飲みました。 そしてふぅと一息。 体の震えも止まったようです。
先ほどのお茶には師匠特製のホットエキスという、小銭稼ぎにと開発した、何とも怪しいものを入れておきましたので体も温まっていることでしょう。
「ところで何の御用でいらしたのですか?」
「…えっと、ここの魔術師様は貴族の奥様方が通うと聞いております。 その奥様方を紹介してもらえないかと。」
「申し訳ございません。 個人情報ですのでどの奥様が通っているかも秘密にさせて頂いております。」
「…。」
女性は俯いてしまわれた。
彼女は悪い人ではない。 そして助けを求めている。 そこまでは彼女の瞳を見るだけで分かるのだがここからは私だけでは解決しそうではない問題のようです。
その時、ドアが開きました。
「あれ?」
師匠が店に来ました。
「お父さん、お客様なのですが…。」
「…ドうしタ?? 施術希望でハ、ナイようだな。」
「助けてください! この帝国のために!」
女性は師匠に詰め寄りました。
「マァ落ち着イテ。 …君、ヤード様の新しイ婚約者じゃナイの?」
「…はい。 申し遅れました。 私はグレッタ・チュリヒと申します。」
彼女はあのヤード第二王子の新しい婚約者なのですね。 師匠、よくこの情報を入手してましたね。 私はよく、街へ買い物に行きつつ、情報を集めているつもりでいましたが、まだまだだったようです。
「ウチは回復処だヨ? 帝国ノ助けにナル?」
「はい! 私はこの国の税金制度を見直したいんです。 このままではこの国は潰れてしまいます。 ナーハヤの税制度も聞きたかったですし、魔術師様の横の繋がりで助けて頂けないかと思いました。」
彼女の目を見る限り、本当にそう思っているようです。
「何かお持ちでしたよね。」
私は彼女に声をかけました。
彼女は自分で書いたという本を師匠に見せました。
「…ナルほど。 こレ、1日預かッてイイか?」
「はい!」
「絶対悪いヨうにシナい。 約束。 魔女の約束をシヨう。」
そういうと師匠はひもを一つ薬指につけて炎で燃やしました。
「…これは?」
お嬢さんが訪ねたので私が代わりに答えます。
「はい。 これはナーハヤに昔から伝わる魔術です。 約束を破ると死にますという恐ろしい魔女の約束。 ナーハヤの人間は何かを契約する時にこれをするんですよ。」
「え、死ぬんですか?」
「今まで死んだ人は見たことないですが、約束を破った人皆酷い病気になりました。」
これは本当の話です。
この約束をするくらい彼女の書いた本は価値があるのでしょう。