あの大魔術師、苦戦する 5
「あ、あのね、うちの土地が取られちゃいそうなの…。」
ピンクちゃんは俯きがちで悲しそうな声で話した。
「一体、どうして…。」
「うちはもう300年同じ土地にいるのに、8日前におじさんと子分みたいなやつが来てね、何か紙を見せてきて、『ここは俺たちの土地だ! 出て行け!』って言ってきたの。」
「うーん、権利書なのかな?」
「よくわかんない。」
…ピンクちゃん、個人情報とかで名前は明かさなかったけど、おうちの細かい事情は話してくれるのね。 個人情報の定義がぶっれぶれだわ。
「一度ピンクちゃんのお母さんとお父さんと会ってお話を聞いてもいい?」
「うん!」
そういうことでピンクちゃんは自分の家に案内してくれた。 …これも個人情報には入らないのかしら?
「お父さん、お母さん、ただいまーー!」
ピンクちゃんは勢いよくドアを開けて元気な声を出す。
「お邪魔いたします。 ピンクちゃんのお友達になりました者です。」
ピンクちゃんの家に入ると中には凄く痩せこけた2人の夫婦が粗末粗末な服を着て座っていた。
「お前! 急にお客さんなんか連れてきて! …すみません、うちは…。」
「お名前言っちゃダメーー!!」
ピンクちゃんが叫ぶ。 この子の個人情報の定義が分からん。
「名前は聞くほど野暮じゃないですよ。 お嬢さんもピンクちゃんと呼ばせて頂いています。 ピンクちゃんにお家の事情を軽く聞きました。 もしかしたら力になれるかと思い、話を聞きにきた次第です。」
「…しっかりとした、お優しいお嬢さんですね。 わかりました。 情けない話ですが聞いてください。 あれは8日前のことです。 ある人達が我が家に来ました。 その男達は我が家の土地の権利書を持っていたのです。 偽物かとも思いましたが帝国の印が入った本物。 男達が言うには310年前の書類を作り直したとのことでした。 本物の権利書がある以上、その男達の土地らしいのです。 …我が一族はこの地で300年暮らしてきて、やっとの思いで生活したのに。 3日後また男達が来ることになっているんですが、それまでに荷物をまとめないと。 …お嬢さん、話だけでも聞いてくれてありがとう。 心が少しだけ軽くなりました。」
絶対に嘘だろうに。 自分の土地を取られて話をこんな小娘にしただけで気持ちが軽くなる訳じゃない。
「おじさん、貴方達がここに300年住み続けている証拠みたいなものはあるの?」
「ええ。 これです。 この紙です。 先日男達が来た時に村の役所での出生書類をさかのぼって記録してもらったんです。」
私は出生書類を見せてもらった。 帝国のこの出生書類にはどこに住んでいるか一生分書かれているのだ。 だからこの一族が300年ここに住んでいたのは間違いない。
「おじさん、私も調べてみます! では! ピンクちゃん、またね!」
「おねーちゃん、バイバーイ!」
私は別れを告げると急いで家に帰った。