あの少女が欲しいもの 4
「わーい!! 美味しそう! おじちゃん、ありがとう!」
リリーちゃんは部下に礼を言い、満遍の笑みでドーナツを頬張る。 その可愛らしさに周りの部隊員全員がほっこりしているのが分かる。
「…そういえば、最近、お前の娘は見かけないなぁ。 前はあんなにこちらに連れてきていたのに。」
私はドーナツを運んできた部下に話しかけた。
「娘は年頃になりましたからね。 大佐長の目にはちょっと……入れたくない。」
なかなか失礼な事をストレートにいう奴だ。
「わかる。」 「俺の所もだ。」 「みんなそうだよな。」
何故か所々でそんな声が聞こえてきた。
「はははっ! ジャコモ大佐長の女癖の悪さは部隊一の問題ですからなぁ。 皆、自分の身内は関わらせたくないんですよぉ!」
番人の爺さんが笑いながら言う。 …正直そこまで酷くないと思うのだが。
「ジャコモさん、サイテーですね! でも、ハリーも言ってました! 『ジャコモ様は大きくなった私を狙ってくるタイプだから気を許すな』って!」
部隊員一同大笑い。 ハリー君やリリーちゃんにまでそう思われていたとは。 …まぁ仕方のない事だが。
「なんでジャコモさんは結婚しないんですかぁ?」
リリーちゃんがキラキラした目で聞いてきた。 心が荒むからその目はやめてほしいです。
「いつまでも初恋を追いかけた生きた亡霊ですなぁ。」
番人の爺さんがうむうむと首を縦に振りながら答えた。
「爺さん、うるさい。 お前らも仕事はしているのか!!」
私が一喝すると皆蜂の子を散らすように持ち場へ戻っていった。
「…全く。」
私は呟かずにいられなかった。
「おぉ、怪しい記録がありましたぞ。」
番人の爺さんが本の一行を指した。
それはガシュ歴44年の300日前後と書いてあり、続いて「フードを被った若い男1人。 商人用手形を3つ所持。」とあった。
「…爺さん、これのどこが怪しいのか。」
「まずは日付がしっかりと書いとらんのです。 たまーに私もミスをしますが日付は欠かしてはダメだと教え込まれるんですよ。 そして手形3つ。 商人用手形は1人1つ、ないし商会で1つが決まりで。 3つも持っていたとなるとまるで奪ったとしか…」
「こいつの名前は?」
「…不思議と登録されてないです。」
「どういうことだ?」
「分かりません。 この時に担当していた門番は…… 死んでます。 2年前に。」