あの憎き人間 6
ハリー君は伝えたいことを伝えると再び眠ったようだ。 ぷかぷか浮いているところに可愛い寝息が聞こえる。
…本当に同い年なのかな? 可愛い。
「うーん、一つ疑問に感じてることがあるのよね。」
ナナージュ様が頭を傾げる。
「どうしたんだ、ナナ。」
「いやね、彼女のドレスや宝飾品なんだけど… そんなに派手じゃないのよ。 逆に品があるというか。 あれはそこまでお金を使い込んでいる品物ではないわ。」
「そうなのか?」
「男には分かんないっすよ。」
「うーん、特に宝飾品に関してだけど。 多分、あれはリメイクね。 昔からある宝石を使って新しいデザインのアクセサリーにしたものよ。 宝石のカットの技法がひと昔まえだったみたいだもの。」
「…おかしいなぁ。 実は俺が調べたところだと、ノア嬢には毎月『王妃教育費』みたいなものが与えられているんだ。 それも一般騎士団員の5倍の値段だ。」
5倍! ただの婚約者がお金をそんなに貰っているのか! びっくりした。 それだったら普通は自分の身をキラキラに飾るはず。
「ノア嬢は別のことに使っているってことっすかね?」
「あぁ、そういうことになるが… 何に使っているのか検討もつかない。」
大佐長まで頭を傾げた。
「それに悪女って感じは全くなかったわ。 …もちろん臭い以外だけど。」
ナナージュ様が再び頭を傾げる。
「確かに帝国一民に扮したオレらに敬語を使ってたっ! 傲慢な感じはなかったっすね。」
オレは臭いで頭がいっぱいになり、そこまで考えられなかったけど、ナナージュ様はしっかり見ていたんだな。 女性独特の観点かもしれないけど素直に尊敬する。
「俺はノア嬢には全く会わないからな。 会っても存在してない扱いをされてるんだよ。 …さっきも俺には何もなかっただろ? 挨拶すらない。」
確かにそうだ。 オレはナナージュ様の呪いで顔が変わってしまっているが、大佐長は普通に一緒にいた。 でもノア嬢は大佐長に特に挨拶することなく、早々と店を出たのだ。