あの憎き人間 5
「おい、お前たち、一体、何があったんだ?」
大佐長が心配そうな顔をして聞いてきた。
「大佐長はあの臭い…何ともないんすか? ノア嬢が来た時…」
「ノア嬢が来た時? あぁ、薔薇のようないい匂いがしたな。 ナナの匂いとも似ていたな。」
「はぁ?? マジで言ってるの??」
ナナージュ様がブチギレていた。
「あの獣臭いような、血生臭い臭いと私の匂いが一緒なわけ?」
「ナナ、何言ってるんだ?」
「…オレら魔法が使える人間と大佐長ではにおいが違っているんすね。 もしかしてこれ…」
「ええ、ニールサ。 想像通り、これが『魅了の魔法』よ。 どうやら人によって1番好きな、魅了的な匂いとなって感じてしまうみたいね。 …私達以外は。」
「正直、強烈っすよ。 あんなん相手に出来ないっす。 もう、嗅ぎたくない… バジアミン家とか侵入出来るんすか?」
「うっ! なかなか痛いところつくわね。 このままでは私も死ぬわ。 …ハリーが特に心配よ。 あんなに苦しそうな様子初めてみたわ。」
「すまん。 多分ジャコモもそんなことはわからなかったはずだから。 またジャコモを入れて話し合うことにしよう。 お前らの命の方が大切だから無理はしてほしくない。」
その時、ハリー君が起き上がって、こちらへ来た。
「ハリー君! 大丈夫か?」
「そうっすよ! まだ顔が青いっす。」
「休んだ方がいいわ。」
それぞれに声をかける。 思わず声をかけてしまうほど見た目が良くないのだ。 息も苦しそうだし、顔も青い。
ナナージュ様がハリー君を魔法で浮かせた。
「ハリー、このまま浮いて休んでいなさい。 これは強制よ。 …何か伝えたいことがあるんでしょ。 寝ながらでも話せるんじゃない?」
「は、はい… 実は…あの人…ノア嬢…何も心が読み取れなかったんです。」
「えっ! マジで! ハリー君でもそんなことあるんすね?」
「実はたまにジャコモさんの心も読み取れないんですが、あそこまでではなくて。 もう、心が真っ黒で。 唯一読み取れたのは師匠を見た時、その時、驚きと喜びの感情は読み取れただけなんです。 多分皆さんもそれは読み取れたと思います… 本当に申し訳ないです。」
「何それ、凄く怖い。」
思わずナナージュ様が呟いた。
全く同感です。