あの令嬢の悲劇 1
「奥様! だ、誰かー!!」
その叫び声。 外の美しい庭の大きな一本の木にぶら下がる影。
あの日の記憶はもう私の頭から離れる事はない。
お母様が自害した。
原因は借金だった。 お父様がいない間の出来事で、私はこの事実に気付けなかったのが未だに悔しくて。 あのお母様の知り合いだという男の顔も忘れられない。 しっかりと覚えている。 あれはお母様の幼馴染だと聞いていた。 だからお母様は信じたの。
お母様はもう、「ジュリエッタちゃん」と優しい声で私のことは呼んでくれない。
そして私の不幸はこれでは終わらなかった。
お父様が帰ってきて、寝る間も無く、借金の片付けをしていた。 そして、ある日、帝国の騎士団、つまり、お父様の部下たちが集団で押しかけてきた。
「ガイオ・オファー! 国家反逆罪で貴様を逮捕する!」
そして、お父様は連れて行かれた。
お父様がいなくなったオファー家。 残りの仕事は私がしなければいけなかった。
余分なお金はない。 使用人は全て解雇した。 だけど、年老いた1人の執事長だけ、自らの意思で残ってくれた。
そして財産整理を一緒にしてくれた。
そうして大きな借金を片付けて、何とか1人で払えそうな金額にまでなった時、お父様が城の地下の牢屋から逃げたと聞いた。
確実にオファー家はお終い。 私も結婚なんてできない覚悟をした。 1人で生きていかなければいけない。 決意を新たにした時、執事長が今働いているお店を紹介してくれた。
「ここなら主人もいい人ですし、お嬢様を守れる事ができます。 借金も返せます。 お金をたくさん貯めてください。 若い頃に。 そうして後はのんびり過ごせるはずです。 お嬢様が少しでも穏やかに暮らせますように。」
涙を流しながら執事長と別れ、私は、ショーダンサーとして働く事になったのだ。