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6-3 いつも見上げている角くんの顔を見下ろして

 インストが終わると、財宝リストに描かれた絵の中の一つが光り始めた。金色のリングに赤い宝石が輝いているそれの脇には「ゆびわ」と名前が書かれている。


「最初は、この『ゆびわ』を探すってこと? でも、どこにあるか全然わからないんだけど」

「そうだね。まあ、最初のいくつかは正直なところ運ゲー。当てずっぽうで動いて見付かったらラッキーくらいな感じかな。見付からなくても、どこに何が隠されているかは、覚えておけば役に立つから」


 まだゲームが始まってもいないというのに、途方に暮れた気持ちになってしまう。

 何もわからない気持ちで森の地図を見る。森の真ん中に池がある。それを取り囲んで四角く、霧が覆っている。

 地図は四角く区切られていて、縦に五マス、横に五マス。縦横に二本の道が交差して「井」の形を作っていて、移動できるのはその道の上だけみたいだった。


 緑のローブのドワーフが一番最初で、地図の右端、下の方の道から森に入った。地図のその場所が緑色に光って、そしてそこに財宝の絵が浮かび上がる。その財宝は「コイン」だった。

 次は黄色のローブのドワーフ。黄色のドワーフは、緑のドワーフから一番遠い道──地図の左端の上の道──から森に入って、そこで動きを止める。そこに見えた財宝は「かびん」だった。


 そして、わたしの番。角くんと二人で森の周りをぐるっと歩いて──とは言っても、わたしはローブの裾が長くて歩きにくいし、体はふわふわと軽いしで、気付けば角くんの隣をふわふわと飛んで移動していた──入り口の前にやってくる。

 最初だから、あまり考えても仕方ないと思って、緑と黄色のドワーフの間くらいの入り口を使うことにした。地図だと、上端の右側の道だ。

 目の前の霧の壁に向かってどんぐりのランタンを持ち上げるけど、その小さな光では、中まではちっとも見えなかった。


「中に入る前に宣言してね」


 角くんの声に、見上げて瞬きを返す。そういえば、移動する前に財宝を一つ宣言するんだったっけ。進んだ先の財宝が宣言の財宝と同じなら、もう一つ進めるって言ってた。


「でも、何があるかってわからないよね?」

「そうだね、まあ、わからないんだけど。これも、当たったらラッキーくらいだよ。とりあえず何か言っておけば当たるかもしれないんだから」


 そういうものかと思って、わたしは財宝リストを眺める。財宝は全部で十六もある。さっき見えた「コイン」と「かびん」は違う。今のところ情報はそのくらい。絞り込むのはどう考えても無理だ。

 その時、リストの中に「ほし」という文字を見付けて、それを見てみたいなと思ってしまった。


「じゃあ『ほし』にする」


 わたしの「ほし」という言葉が、口から飛び出た瞬間、ぽっと小さな光に変わる。びっくりして自分の口を押さえたけど、光は飛び出たまま、目の前にふわふわと浮かんでいる。

 その小さな光は、ふわふわと漂って、わたしが持っているどんぐりのランタンの中に収まった。それでランタンの明かりが強くなって、道の先を照らし出す。


「何、今の……びっくりした」

「宣言がこんなふうになるんだね。魔法なんだ、すごい」


 角くんがどんぐりのランタンを眺めようと頭を下げたので、わたしは少し高く飛び上がってランタンを角くんの目の高さに持ち上げた。

 角くんはランタンを見て、それからわたしの顔を見上げる。いつも見上げている角くんの顔を見下ろして、そうか、本当に飛んでるんだと思って、そうしたらなんだか少し楽しくなってきた。




 わたしの宣言から生まれた光は、どうやらこの魔法の霧を照らしてくれるらしい。濃い霧を切り取るように、光が道を作ってくれる。

 角くんはランタンを持っていないので、わたしが近くにいないと身動きが取れない。だから、角くんから離れないように、角くんの周りを飛び回りながら進む。羽がむずむずとして、なんだかじっとしていられない。

 ランタンの光が一方向を指し示しているのに気付いて、霧の中を進めば、光に照らされて大きな木が浮かび上がる。ランタンの光に応じるように、その根元で金色の光が瞬いた。

 角くんと顔を見合わせて、木の根元に駆け寄って──わたしは飛んでいたので駆けてはいないんだけど──その茂みを覗き込めば、そこにはぴかぴかと輝く金色の「ほし」が落ちていた。

 どんぐりの中に入っていた光が嬉しそうに飛び出してきて、そこに落ちている「ほし」の光の中に溶け込んでしまった。ランタンの光が、また心細く小さなものになってしまう。


「『ほし』、当たったね」

「もう一回進めるってこと?」

「きっと。宣言してみたら?」


 財宝のリストを眺める。金色に輝く「ほし」は綺麗だった。ほかに見たいものは──。


「次は『まほうのつえ』」


 そしてまた、わたしの言葉が光になる。その光が導くままに進んで、けれど残念ながらそこに隠されていたのは「アミュレット」だった。

 ランタンの中に入っていた光が少し瞬いた後、地面に落ちて解けるようにすうっと消えてしまった。


「あ、消えちゃった」

「これで、大須さんの手番はおしまいってことかな」

「やっぱり難しいね」

「まあ、最初はね。でも、こうやって何がどこにあるか覚えておけば、どんどん進めるようになるから」

「そうか、覚えておかないといけないのか」


 溜息をついて、森の地図と財宝リストを見比べる。「コイン」と「かびん」はこことここ。「ほし」と、隣が「アミュレット」。覚えておけるだろうか。


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