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『パッチワーク:冬の贈り物』

角くん視点。

何年後かな。コレジャナイ感がある場合は、こじらせた角くんの見た夢か妄想だと思ってください。

「また八降(やつふる)くんに負けた」


 ゲームが終わって「ありがとうございました」と頭を下げ合うより前に、瑠々(るる)ちゃんは悔しそうに唇を尖らせてそう言った。

 テーブルの上には時間の経過を示す共通のボード。それぞれの前にはパッチワークを作るためのキルトボード。

 キルトボードは色も形も模様も様々なタイルが並んで埋められている。もちろん、ところどころ埋まりきれてないマス目もあるけど。

 悔しそうな瑠々ちゃんは、クリスマスツリーの形の駒を指先でつついた。


「『パッチワーク』ってやっぱり難しいよね」

「そうだね。割とこう、なんていうか、慣れてる人が勝つゲームだと思うよ。俺も苦手な方だけど」

「こんな可愛い見た目なのに」


 頬杖をついた瑠々ちゃんが、タイルを一枚持ち上げて眺める。

 このゲームは『パッチワーク』という名前の通り、いろんな形の布を組み合わせてパッチワークを作る二人用ゲームだ。

 今遊んでいたのは、そのクリスマスバージョンの『パッチワーク:冬の贈り物』。ルールは変わらないけど、駒がクリスマスツリーになっていたり、全体的なカラーがクリスマスっぽくなっていたり、布地タイルの色合いやデザインもクリスマスらしい雰囲気になっている。

 カラフルで賑やかで可愛いこのゲームは、瑠々ちゃんのお気に入り。だけど、大抵いつも俺が勝つことになってしまう。

 何度も遊んでいるうちに瑠々ちゃんも上手になってはいるんだけど、運の要素がほとんどないこのゲームは、その見た目よりもずっとシビアだ。


「アドバイス、いる?」


 俺がかけた声に、瑠々ちゃんは少し考えてから首を振った。


「待って、今は良い。自分で考えたいから」

「じゃあもう一回遊ぶ?」


 瑠々ちゃんは唇を尖らせたまま頷いた。その表情がなんとも言えず、俺は視線を伏せてしまった。足元からむずむずそわそわとした気分が登ってきて、落ち着かないまままた瑠々ちゃんを見る。

 腰を浮かせて、こちらを見ている瑠々ちゃんに向かって大きく身を乗り出す。瑠々ちゃんの手が持ち上がって、柔らかく押し戻される。

 きっと俺は不満げな顔になってしまったと思う。

 瑠々ちゃんは少し顔を赤くして俯いて、上目遣いに俺を見た。


「そういうの、ゲーム中は駄目って言ってるよね」


 その表情も俺をむずむずとさせるものではあったけど、とりあえずは了承の意向を伝えるために座り直した。それで瑠々ちゃんもほっとしたように手を降ろして、それから恥ずかしいのを誤魔化すためか、小さく俺を睨んだ。


「とにかく、もう一回遊んで。今のでちょっとわかったことがあるから、次はもうちょっとうまくできると思う」

「良いよ何度でもって言いたいところだけど、もう一回遊んだらケーキ食べようか」


 ふわり、と瑠々ちゃんが笑う。まるでもうケーキが目の前にあるみたいな表情で。


「うん。ケーキも楽しみ」


 ゲームが嫌いで、ゲームが怖くて、ゲームから距離を取っていた瑠々ちゃん。だけど今はもう、楽しくボードゲームを遊べるようになった。

 負けて悔しがったり、勝って嬉しがったり、勝つためにあれこれ考えたり、他のプレイヤーの動きに気付いたり、そうやって一緒にボドゲを遊ぶようになった。

 こうして瑠々ちゃんと二人で、二人きりでボドゲを遊べていることが嬉しくて、身体がそわそわと熱くて、目の前の瑠々ちゃんはまるでケーキみたいに甘く見えた。

 落ち着かずにもう一度腰を浮かせた俺は、やっぱり瑠々ちゃんの手に押しとどめられた。


「だからゲーム中は駄目だってば」

「じゃあ、終わったら良い?」

「終わったらケーキだよね」

「ケーキが終わったら?」


 瑠々ちゃんは頬を赤く染めて、俺を睨みあげた。


「知らない。とにかくまずはゲーム」


 もう一度座り直して、それでも諦めきれなくて、テーブルの上にあった瑠々ちゃんの左手に自分の右手を重ねる。逃げようとする手を掴んで、指先を絡め取る。

 瑠々ちゃんは俺を睨んで何か言いかけたけど、それよりも先に楽しいゲームの時間が始まった。




 そんな幸せなクリスマスの夜が、きっといつかは。





『パッチワーク:冬の贈り物』


・プレイ人数: 2人

・参考年齢: 8歳以上

・プレイ時間: 30分前後




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