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『光合成』

角くん視点。

一年生入学してすぐくらい。

(かど)、これが第三資料室の鍵。失くさないよう管理して、もし紛失した際はすぐに届け出ること」

「はい、ありがとうございます」


 先生から受け取った鍵にはタグが付いていて、そこには手書きの字で「第三資料室」と書かれていた。

 それを握り締めて教員室のある一階から階段を登る。踊り場を回って二階、さらに三階、四階。校舎の最上階。

 第三資料室は校舎最上階の端っこにある。余ったスペースをとりあえず部屋にしました、みたいな狭い部屋だった。

 それでも今日からは、ここがボドゲ部の部室になる。部活も部室もまだ仮だけど、それでも名乗ることはできるし、使って良いのも確かだ。

 鍵を差し込んでドアを開ける。右手側には棚が並んでいて、壁が塞がっていた。左手側と正面には窓。ずっとあるらしい白いカーテンが、外からの光を柔らかく通している。

 床のほとんどは置かれた二台の長机で埋まってしまっていた。長机の周囲にわずかにあるスペースに、椅子が何脚か置かれている。確かに狭い。

 中に入って、ドアを閉めて、背負っていたカホンバッグを長机の上に置く。黒いカホンバッグに白い埃が付いたのが見えて、とりあえず掃除をしないと、と思った。

 そうして、ボドゲ部(仮)(カッコカリ)の最初の活動は、仮の部室の掃除になった。




 掃除と言っても狭い部屋で、棚と長机の埃を軽く払ったり拭いたりしたのと、床を掃いたくらいだ。あっという間に終わってしまった。

 掃除道具を返してきて、俺は改めて仮の部室で椅子に座る。

 新しい部活を立ち上げるのは、案外面白い作業だった。校則を確認して、教師に確認を取って、いくつかの書類を書いて出して──それ自体が何かのゲームみたいだとも思った。いくつかの勝利条件を達成すれば勝利。

 ボドゲ部だってこの部室だってまだ勝利じゃない、ただの勝利条件だ。本当の勝利はもうちょっと先、ボドゲ部で実際にボドゲを遊ばないとやってこない。

 でも、部室はかなり重要な勝利条件だから、それが達成できたことを今日のところは喜んでおくことにする。

 試しにカホンバッグを開けて、中身を取り出してゆく。そうやって何にしようと少し悩んでから『光合成』の箱を選んだ。

 木に当たった陽の光で自分の木を成長させて、最後に伐採すると点数になる。その時に、森の真ん中の栄養のある土地の方が点数が高い。ただし、森の真ん中は他の木の影になって陽の光が当たりにくい。

 さらに太陽はどんどん角度を変えてしまう。次に影ができる方向を予想して、他のプレイヤーの木の影に入らないように、逆に他のプレイヤーの成長を邪魔するように木を育ててゆく。

 そんなゲームだ。

 このゲームは何より、内容物(コンポーネント)が綺麗だ。厚紙を組み合わせて立たせた木がしっかりした大きさと立体感で、それが並んでいる様子がとても良い雰囲気だと思う。

 様々な色合いの様々な大きさの木がボード上に並んでいる様子は、まさに森、という感じだ。

 そうやって眺めて、焦っちゃいけない、と思う。

 このゲームでは自分の木を増やすために、まずは種を飛ばすところから始める。飛ばした種が木になるまでは次のターンまで待たないといけない。それだって、陽の光がじゅうぶんに当たらなければ、成長することができないままになってしまう。

 木になっても、そこから次の大きさに、また次の大きさに成長させないといけない。それにはやっぱり何ターンもかかる。

 それでも、ちょっとずつでも成長させられる。少しでも先に進むことができる。


「大丈夫」


 一人の部室で、小さく呟く。

 次は彼女に声をかけること。声をかけて、一緒にボドゲを遊んでもらうこと。それが勝利条件だ。

 そして、本当の勝利は彼女に楽しんでもらうこと。


「大丈夫」


 もう一度呟いた。その声は、狭い部室で思いの外大きく響いて聞こえた。




 結局、ゴールデンウィークに入るまで、俺は彼女に声をかけることができなかったのだけど。

 それでもゴールデンウィーク明け、なんとか声をかけて、なんとか遊んでもらえて、それでようやく俺の勝利条件は達成されることになったのだった。





『光合成』


・プレイ人数: 2〜4人

・参考年齢: 10歳以上

・プレイ時間: 30〜60分




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