『なつめも』
大須さん友達視点。
二年の夏休み明け。
「瑠々ちゃん、最近角くんに名前で呼ばれてるよね……?」
わたしが聞くと、瑠々ちゃんは困ったようにストローを咥えた。
そこまで返答に困ることを聞いたつもりはなかったのだけど、畳み掛けると引っ込みそうな気がして、わたしもストローを咥える。
夏休みは終わっても、まだ気温は高い。わたしたちはまだ夏服のままだけど、メニューは秋を思わせるマロンシェイクが始まっていた。
栗の香りと甘みが冷たさと一緒に口の中に流れ込んでくる。それを飲み込んだ頃、瑠々ちゃんはようやく顔を上げた。
「そうなんだけど。それもボードゲームの関係っていうか……」
瑠々ちゃんの言葉に、わたしは眉を寄せてしまった。ボードゲームというのをよく知らないけど、一体何がどうなったら名前で呼ぶようなことになるのか。瑠々ちゃんは角くんと、ボードゲームで遊ぶと言いながら、何をやっているんだろうか。
わたしが黙っているからか、瑠々ちゃんは慌てたように言葉を続けた。
「『なつめも』ってボードゲームがあって、小学生になって夏休みに一緒に遊んだりするゲームなんだけど、そのゲームってお互いに名前で呼び合うことになってて、それで……それで、角くんの方はゲームが終わってもそのままで」
瑠々ちゃんの説明はよくわからなかった。名前を呼び合うゲームってどういうことだろう。うまく想像ができないまま、わたしは口を開いた。
「ゲーム中はわかるんだけど、角くんはゲームが終わってもずっと名前で呼んでるってことだよね? 瑠々ちゃんは嫌じゃないの?」
「え」
瑠々ちゃんは、わたしの顔を見て何度か瞬きをした後、目を伏せて言った。
「嫌、ではない、かな。落ち着かないことはあるけど」
そういえば、男子の誰だったかが「夏祭りで二人を見た」って騒いでたっけ。
そんなことを思い出して、わたしは恐る恐る聞いてみた。
「念のため聞くんだけど、二人、付き合ってるわけじゃないんだよね?」
瑠々ちゃんは弾かれたように顔を上げて、勢いよく首を振った。
「ない! 付き合ってない! そういうんじゃなくて!」
その反応は誤魔化しや嘘に思えなくて、わたしはほっとする。もしそうなったとしたら、やっぱりちゃんと教えて欲しいなと思うから。
瑠々ちゃんは自分の声の大きさに気付いたのか、慌てて声を潜める。
「角くんはボードゲームが好きで、兄さんもボードゲームが好きで、だから兄さんと仲が良くて、それで……ちょうど良いからわたしと遊んでるんだと思う。角くんが好きなのは、ボードゲームで……違うのかな」
自信なさそうに、瑠々ちゃんの視線が揺れる。その手の中で、マロンシェイクが柔らかく溶けて形を失いはじめている。
「違うかどうかはわたしにはわからないけど」
ちょうど良いってだけで、名前で呼んだり一緒に出かけたりはしないんじゃないかな。とは思ったものの、なんだか余計なことって気がして、わたしはそれ以上何も言わなかった。
それに瑠々ちゃんがどうしたいのか、その言葉からはわからない。
「瑠々ちゃんは、それで良いの?」
思いもよらなかった、という顔で瑠々ちゃんはわたしを見た。視線が合うとぱっと顔を伏せて、またストローを咥えて、マロンシェイクを一口飲んで、それからようやく口を開く。
「良いというか……嫌じゃないんだと思う」
嫌じゃない。それってつまり──とまでは問い詰めなかった。問い詰めてしまったら、きっと変わってしまう。変わってしまって、そのときにわたしは変わらずにいられるだろうか。
だから、そっか、と短く答えただけ。それでわたしもマロンシェイクを一口、その独特な甘さを飲み込んだ。
『なつめも』
・プレイ人数: 3〜6人
・参考年齢: 8歳以上
・プレイ時間: 30〜45分




