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『イマジナリウム』

伊佳瑠兄さん視点。

『DANY』の前日譚。

 最初にその光景を見たとき、驚きはした。

 カドさんは高校生。ボドゲ会で知り合って、同卓することも多くてよく話すようになった。妹の瑠々(るる)と同い年なのも知っていたし、通っている高校が同じなのも知っていた。

 だから、休日のバイト帰りにそのひょろりと背の高いカドさんと小柄な妹が並んで歩いているのを見て、「まあ、そういうこともあるかもな」と冷静に考えてもいた。




いか(・・)さん、そのゲームなんですか」


 次のボドゲ会で、俺が手にしたゲームに興味を示しながら、カドさんが近付いてきた。

 スチームパンク的なデザインの箱には背中に機械のようなものを載せて足に歯車が着いた象の絵が描かれている。


「これは『イマジナリウム』。ワーカープレイスメントっていうよりは、拡大再生産コンボゲーって感じですかね。とにかくアートワークが大好きなんですよ」

「いかさんの好きなゲーム、気になります」


 カドさんはいつもの楽しそうな笑顔を浮かべて、その箱を眺める。差し出せば、カドさんは箱を受け取って引っ繰り返して裏面を眺めた。

 箱の中から内容物(コンポーネント)のざらざらという音が聞こえる。


「スチームパンクに動物というか生物的なナマモノっぽさが混じってて、なんていうか、熱があるときに見る悪夢っぽい感じで、ちょっと毒がある感じがとにかく好みなんですよね」

「へえ、デザインも独特だし、システムも面白そうですね」

「久し振りに遊びたくて。人数が集まるなら、と思って」

「俺も遊びたいです」


 ためらいなく、カドさんはそう言った。ボドゲへの好奇心を目に浮かべたその言葉は、間違いなく本心だろう。

 自分の好きなゲームを気になってもらえて、俺も嬉しくなる。


 顔を上げれば、別のテーブル()のゲームが終わりかけだった。それを待ってからにしようと考えて、またカドさんを見る。

 そのひょろりと背の高い姿を見上げて、ふと、この前のバイト帰りのことを思い出した。それを口にしたのは何気なく、ちょっとした世間話のつもりだった。


「そういえば、この前の土曜に出かけてました?」

「え?」


 カドさんはびっくりした顔で俺を見下ろした。俺は慌てて言葉を続ける。


「あ、いや、この前、バイト帰りに見かけて。二人だったから声はかけなかったんですけど」


 隣にいたの俺の妹なんですよ、とまで言おうかどうしようか迷っているうちに、カドさんは「ああ」と笑って口を開いた。


「あれは、ボドゲ部の活動の一環ていうか」

「ボドゲ部?」

「ボドゲ部で『御朱印あつめ』を遊んだんですよ。それで、本物の御朱印てどんな感じだろうねって話になって、一緒に行くことになったんです」

「え、じゃあ、一緒にいたのってボドゲ部のメンバーってことですか?」

「そうなんですよ。一緒に遊んでもらってるんです」


 カドさんは、楽しそうに頷いた。

 俺は、二人が並んでいる姿を見かけたときよりも、驚いていた。驚きを通り越して混乱もしていた。

 妹の瑠々はゲームが嫌いだ。それは、妹のちょっとした──でもボードゲーマーからしたらとんでもなく羨ましい体質のせいで──その妹が、ボドゲ部でカドさんと一緒にボドゲを遊んでいる姿なんて、想像もできなかった。

 妹は俺の誘いなんか冷たく断るし、ボドゲ棚のある俺の部屋になんか近付こうともしない。ゲームと呼ばれる類のものからはできるだけ遠ざかっている。

 その妹が……ボドゲ部? まさか!


「その……ボドゲ部のメンバーと、ボドゲを遊んでるんですよね?」


 俺の変な質問にも、カドさんは穏やかに頷いた。


「それはまあ、ボドゲ部なので。一緒に遊べて、ボドゲ部、とても楽しいんです」


 妹の体質で遊んでるなら、そりゃ楽しかろう。いや、でも、やっぱり妹がボドゲを遊ぶなんて考えられなかった。

 それ以上、何を聞けば良いかもわからなくなっているうちに、向こうのテーブル()の片付けが終わってしまった。


 混乱は収まらなかったけど、今はこれ以上考えてもどうしようもない。カドさんに「それうちの妹です」って言っても、俺の混乱が収まるわけでもない。下手したらカドさんまでボドゲ遊ぶどころじゃなくなってしまいそうだ。

 だったら、それの解決は後回し。今はとにかく、ボドゲを遊ぶ時間だから。


 そうやって俺は、自分の混乱を押しとどめて、遊びたいゲーム(『イマジナリウム』)の箱を持ち上げた。





『イマジナリウム』


・プレイ人数: 2人〜5人

・参考年齢: 14歳〜

・プレイ時間: 90分前後




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