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『8ビットモックアップ』

伊佳瑠兄さん視点。

角くんは高校生になりました。ボドゲ部(仮)始動直前。

 ボドゲ会に参加するようになって、気付けば一年経っていた。


「いかさん、改めて進級おめでとうございます」

「あ、はい。カドさんこそ進学おめでとうございます」


 俺は無事に大学二年に進級できたし、カドさんは地元の高校に進学したらしい。名前を聞けば、妹と同じ高校だった。

 けれどまだアルコールが飲める年齢ではないから、俺とカドさんはボドゲ会後の打ち上げには参加できないまま、二人で帰り道を歩く。

 その相談を受けたのは、そんなときだった。


「ボドゲ部を立ち上げたんです。運良く空き部屋を使えることになって」

「立ち上げ……へえ、学校でボドゲ遊ぶんですか?」

「そう、できたら嬉しいなと思って」


 そう言って、カドさんははにかむように笑った。

 カドさんは大人しそうに見えて意外と行動力がある。まあ、そうじゃなければ大人ばかりのボドゲ会に中学生が参加したりはしないだろうから、らしいと言えばらしいのかもしれない。


「部員、集まったんですか?」

「それがまだ、俺一人なんです。部員が集まるまでは正式な部活じゃなくて仮なんですけど、部室が使えてボドゲが遊べるなら良いやって思って」

「集まると良いですね、部員」


 カドさんは「ありがとうございます」と小さく笑って、それから真面目な顔をした。


「それで、一人誘ってみようかなって人がいるんですけど。その人は多分ボドゲを遊んだことがなくて、どんなゲームを持っていったら良いかな、と悩んでいて」


 ボドゲ部に誘うなら経験者が良いとは思うものの、そう簡単に経験者が見つかるものでもないだろうことは予想がつく。

 だったら、仲の良い人や付き合いの良い人を誘って遊ぶ方が手っ取り早い。きっとそういうことなんだろう、と思った。

 それで俺は頭の中であれこれとボドゲを思い浮かべながら口を開く。


「カドさんは、何か考えてるゲームとかあるんですか?」

「とっつきやすくて面白さが伝わるものが良いとか考えてるんですけど。例えば『エルドラドを探して』とか『それは俺の魚だ!』とか」

「テーマ性があった方が良い感じです? 『フッチカート』とか『スカウト』とか、そういうゴーアウト系のカードゲームだと軽くてとっつきやすそうですけど」


 カドさんは俺の言葉にちょっとだけ考える素振りを見せた。それから、申し訳なさそうな顔をする。


「テーマ性があった方が興味が引けそうなんですよね、多分なんですけど。俺がそういうのを遊びたいっていうのもあるんですけど」


 割と雑食になんでも面白がるカドさんの、意外な好みを見付けたような気になった。カドさんは、テーマ性があるものの方が好きなのか。そしてなぜなのかその発見を面白がっている自分にも気付く。

 自分のことなのに、それも意外だった。


「いかさん、何か良いボドゲ、知ってます?」

「そうですね」


 俺はボドゲ棚を思い浮かべて、ぱっと思い付いたその名前を口にした。


「『8ビットモックアップ』とかどうですか」


 俺の言葉を聞いて、カドさんの瞳に好奇心が浮かぶ。


「あ、俺それ遊んだことないです。どんなゲームですか?」


 遊んだことのないボドゲの名前にこんな反応をするカドさんは、やっぱりボドゲが好きなんだな、と思う。


「神様の見習いになって世界を作るってゲームですね。草原と砂漠と海、それから毒の沼っていう地形のタイルを繋がるように配置していくんです。特定のタイルを配置したときにモニュメントを設置できて、そのモニュメントが置かれた地形が最後に得点になるので、高得点を狙うように地形タイルを繋げていく、って説明で伝わります?」

「タイル配置ゲームなんですね」

「そう。モニュメントが置かれた地形の広さが点数になって、さらに地形が完成していれば点数が倍。さっくりと楽しく遊べると思いますよ。レトロゲームのドット絵っぽい絵柄も良い雰囲気ですし」

「『8ビットモックアップ』か、覚えておきます」


 そう言って、カドさんはスマホを取り出して何事かを操作する。ボドゲの名前をメモしてるのか、検索して確認してるのか。


「今度持ってきましょうか? 実物見た方が話が早いですよね」

「あ、見たいです。せっかくなら遊びたいですし」


 カドさんはスマホから顔をあげて、頷いた。

 その表情を見て、自分が高校生のときにボドゲ部を作れてたらもっと遊べていただろうか、と考えて、自分ですぐに否定する。

 最近は相手に合わせて遊ぶこともなんとか覚えてきたけれど、高校生のときの俺はそんなふうにできなかっただろう。仮に遊びたいとやってきた誰かがいたとしても、偉そうに経験者ぶったことを言ったりなんかして失敗しただろうな、高校生の俺は。

 自分がそんなに性格が良くないことは、自分がよく知っている。今だってただ、楽しくボドゲを遊びたいから、楽しく遊べるように振舞っているだけだ。

 そんなことを思って背の高いカドさんを見上げる。


「うまくいくと良いですね、ボドゲ部」

「はい。楽しみなんです」


 俺の言葉に、カドさんは楽しそうに笑った。





『8ビットモックアップ』


・プレイ人数: 2人〜5人

・参考年齢: 8歳〜

・プレイ時間: 10〜15分





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