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『フレイムクラフト』

大須さん視点。

二年生の十二月。まだプレゼントは決まらない。

 角くんへのクリスマスプレゼント、一人で悩んでも良いアイデアは思い付かなかった。

 兄さんに相談しても「ボードゲームに関連した何か」としか出てこない。

 これ以上悩んでも仕方ないし、角くんに直接聞いてしまった方が良いのかもしれない、とスマホの画面をつつく。


 ──かどくんて


 そこまで入力して、続きの言葉に迷って指先が止まる。少し悩んでから続きを入力する。


 ──かどくんて何が好き?


 しばらくしてから届いた通知はメッセージの返信じゃなくて通話だった。どうして通話、と思いながら応えると、スマホ越しに慌てたような掠れ声が聞こえてきた。


「あ、ごめん。操作ミスって……返事しようとして。バイト終わったところで、慌てちゃって」


 ボードゲームを遊ぶときはいつも落ち着いているのに、角くんでもこんなに慌てることがあるんだと思って、わたしは笑ってしまった。


「大丈夫。返事も、そんなに慌てなくても良かったのに」

「いや、うん……ごめん」

「ひょっとして、今外にいる?」

「あ、うん。バイトの帰り道」

「じゃあ別に、わたしは急いでないから、返事は帰ってからでも」

「待って」


 操作ミスなら通話の必要はないのかと思って、それで通話を終えようとしたら、角くんに止められた。その言葉は思いがけず強い響きで、わたしは口を閉ざしてしまった。


「あ、えっと、せっかくだからこのまま聞いても良いかな。メッセージの意味」

「意味って……特になくて、そのまま。何が好きなのかなって」


 今度は角くんが、考え込むように黙ってしまった。それで慌てて言葉を足す。


「あの、ボードゲーム好きなのは、知ってるけど。それ以外に」

「ボドゲ以外に?」

「何か、欲しいものとかでも良いんだけど」

「え」


 それっきり、角くんはまた黙り込んでしまった。


「角くん?」

「え、あ、ごめん。ちょっと考え込んじゃって。えっと、俺の好きなものだっけ」

「それか、欲しいもの」

「ちょっと待って、えっと……欲しいもの……」


 角くんがまた黙ってしまった。考え込んでいるらしい。


「そんなに悩まなくても、ぱっと思い付いたもので良いんだけど」

「いや、咄嗟に思い付く欲しいものがボドゲしかなくて……自分が情けなくて」

「ちなみに、欲しいボードゲームってどんなの?」

「欲しいボドゲもいろいろあるんだけど、そうだな……例えば『フレイムクラフト』とか」

「フレイム……?」

「『フレイムクラフト』ね。ドラゴンと人間が共存する世界で、ドラゴンの職人が働く場所を見つけたり、魔法を使って店を大きくしたりして、街を発展させるんだ。雰囲気もほのぼのしてて可愛いし、瑠々ちゃんも遊べるんじゃないかなと思って」


 角くんの言葉に、わたしは瞬きをして、それから慌てて口を開く。


「わたしのことじゃなくて、角くんの欲しいものを聞いてるのに」

「いや、だから咄嗟に思い付いたのがそのボドゲで。欲しいと思ってるのは本当で」


 試しに検索してみたら、七千円くらいで売られていた。ちょっと気楽に買ってプレゼントできる値段じゃない気がする。

 ボードゲームってこんな値段なんだ、と溜息をつく。角くんはこういう値段のものを買うためにバイトしてるのか、と思ったりもした。


「あの……瑠々ちゃん」


 わたしの溜息が聞こえてしまったらしい。角くんの声が心配そうに掠れていた。それとも、歩きながら話してるせいだろうか。

 それでわたしは、できるだけ明るく聞こえるように声を出す。


「あの、ありがとう」

「ううん、大丈夫」

「結局、角くんの好きなものも欲しいものも、ボードゲーム以外にわからなかったけどね」

「それはその、ごめん。でも、もし……いや、えっと、なんでもない。なんかごめん」

「こっちこそ、なんかごめんね。たいした用事でもないのに」

「いや、俺は別に。話せて嬉しかったし」


 もう一度「ありがとう」と言えば「うん」と返ってきて、「じゃあ」と言えば「またね」と言われて、それで通話を終えた。

 角くんが好きなものはボードゲーム。欲しいものもボードゲーム。そして欲しいボードゲームの理由の中には、わたしが遊べそうなゲームだから、というのが入っているらしい。

 わたしはもう一度溜息をついて、意味もなくスマホの画面をつっついた。


「ちゃんとプレゼントしたいな」


 そんな気持ちにはなったけど、何をプレゼントしたら良いかはまだ決まらないまま。





『フレイムクラフト』


・プレイ人数: 1人〜5人

・参考年齢: 14歳以上

・プレイ時間: 60分前後




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