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『スカウト!』

伊佳瑠兄さん視点。

角くんが中学生の頃。順調に仲良くなってる。

「じゃあ、まずは『3』」

「優しい! じゃあ『5』」

「優しい世界だ」


 始まったばかりのゲームで、様子見みたいなカードが続く。

 視線で手番が回ってきて、俺は手札からカードを一枚引き抜いて目の前に出す。


「じゃあ俺も優しく『7』で」


 そして俺も隣に視線を送る。俺の左隣にはカドさんが座っていて、つまり次はカドさんの手番てことだ。

 カドさんは自分の手札から一枚を引き抜いた。


「じゃあ『9』で」


 このゲームでカードの数は「1」から「10」。「9」より強いカードは「10」しかない。

 手番も一巡して、ここからがこの『スカウト!』というボドゲの本番だった。


「これしか出せるのないや、ごめん。『2』二枚」

「うわ、優しくない!」


 次の人はそんな声を上げつつも、自分の手札からカードを三枚出す。


「しょうがないなあ、『6』『7』『8』で」


 このゲームでは、カードの枚数が多い方が強い。ただし、なんでも出せば良いわけじゃない。

 一度に出せるカードは、同じ数か連番じゃないと出せない。しかも、手札の中で自由に並び替えはできないのに、手札で隣り合っているカードだけを一度に出すことができる。

 だから、最初にみんなが様子見のように出していた一枚のカードは、それぞれ間に挟まった邪魔なカードを処分する意味もあったということだ。

 俺は自分の手札と場の三枚を見比べて溜息をつく。

 手札には「8」が三枚ある。カードの枚数が同じ場合は、連番よりも同数の方が勝つ。だから「8」三枚を出そうと思えば出してしまえるけど、ほとんど切り札に近い「8」三枚をここで使うわけにはいかない。


「スカウトで」


 そう宣言して、俺は前の人が出したカードから「8」のカードを一枚手に入れる。これがこのゲームの面白さの一つ。

 このカードは引っ繰り返すと「2」になるカード。それをそのままでも引っ繰り返してでも、自分の手札の好きなところに差し込める。

 自分の手札の「8」を四枚にするのも魅力的だけど、それよりも半端になっている「9」一枚の隣に置いて「8」「9」の連番を作ってしまう。

 俺が「8」を取ったから、場のカードは「6」「7」の二枚の連番になった。

 どうぞ、とカドさんに手番を譲れば、カドさんはほっとした顔をしていた。もしかしたらカドさんは三枚出すの厳しいんじゃないか、とそれで予想する。


「じゃあ『2』を二枚で」


 そうやって、手札のカードを減らしたり増やしたりしながら、得点を稼ぐゲームだ。手札に残ったカードはマイナス点だから、手札のカードは失くなった方が良いけど、点数はそれだけじゃない。

 カードを出すことで、それまで出ていたカードを点数として受け取れる。自分が出したカードをスカウトされたら、それも点数になる。

 そんな要素も組み合わさって、さっと遊べる面白いゲームになっている。




 そこからゲームは、俺の「8」三枚の切り札が「1」五枚によって阻止されたり、そんな思いがけない展開で一盛り上がりして、結局俺は二位だった。

 ちなみにカドさんは最下位。途中明らかに数のインフレについていけない感じだったから、手札に恵まれなかったんだろうな、という気がする。


「頑張っても三枚が作れなくて」


 と、本人も言っていた。それでも楽しそうに笑っているんだから、カドさんはよっぽどボドゲが好きなんだろう。人のことは言えないけど。


「どうしますか、もう一戦やります?」

「いや、なんかあっちの卓がもう片付けしてるんで、これで終わりにしましょう」


 そうやって、待ち時間の軽ゲーは終わりを迎えた。みんなでありがとうございましたと挨拶をして、それから手早くカードとチップを片付ける。

 椅子から立ち上がって、それを口にしたのは本当に何気なくだった。


「そういえば、今度大学の先輩の家でボドゲ遊ぶんですけど、カドさんも来ます?」


 俺の言葉に、カドさんはびっくりしたように目を見開いた。それから、落ち着かないように視線を彷徨わせて、また俺を見る。


「えっと、その……」

「あ、無理にとは言わないですけど。先輩、重ゲー好きな人なんで、基本重ゲーばっかりやることになると思うし」

「いや、お誘い嬉しいです。俺が行って良いなら……その、お邪魔でなければ……」


 戸惑いながらそう言うカドさんの表情が、なんだか不意に年相応に幼く見えてしまった。それで、そうか中学生だった、と思い出して、妙に慌ててしまった。


「本当にボドゲするだけの集まりで、怪しいことはないんで。出入りも自由だし。だから、カドさんさえ良ければ。その……親に怒られない範囲で」


 俺の早口の説明に、カドさんはほっとしたように笑った。


「俺が行って良いなら、ぜひ」

「じゃあ、また連絡します」


 そうやってお互いにスマホを出して連絡先を交換して。

 自分でも、どうして急に誘う気になったのか、そのときにはわかっていなかったけど。

 まあ要するに、カドさんとは楽しく遊べそうな気がしていた。それだけのことだ。





『スカウト!』


・プレイ人数: 3人〜5人

・参考年齢: 9歳以上

・プレイ時間: 約15分




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