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『ドミニオン』

角くん視点。

『タッジー・マッジー』あたりかな、と思います。

(かど)くん、それじゃあまたね」


 俺に向かって手を振る大須(だいす)さんに、同じように手を振り返して「また」と返す。

 その小さな後ろ姿をしばらく見送って、それからようやく歩き出した帰り道。


 高校に入学したばかりの頃、なんとか大須さんに声をかけて、半ば無理矢理一緒に遊んでもらった。その頃は大須さんにとても警戒されていた。

 まあ、当たり前だと思う。大須さんはゲームが好きじゃない。それを一緒にボドゲを遊ぼうなんて、受け入れがたいだろうと想像できる。それに俺は、大須さんの「ボードゲームの世界の中に入ってしまう」って秘密を知っていたんだから。

 結局、最初に大須さんが渋々とはいえ一緒に遊んでくれたのは、その秘密があったから。俺のほとんど唯一の切り札を、俺は最初に使ったのだった。


 今は違う。

 違う、と思う。


 大須さんはボドゲを楽しそうに遊んでいる。勝てば嬉しそうにするし、負けると悔しがるようになった。うまくいかなくても立て直せるようにもなってきた。

 もう一度、遊びたい。

 そう言われるようにもなった。


 なんだかデッキ構築ゲームみたいだな、と思ったりする。そう『ドミニオン』みたいな。

 最初は弱い手札しかなくて、なかなか思う通りにいかなくて、でも自分の手番がくる度に手札からカードを出してカードを増やして、それを繰り返して気付けば山札(デッキ)は充実している。

 大須さんに声をかけてからずっと、俺がやってきたのは一緒にボドゲを遊ぶことだけ。それを繰り返して繰り返して、気付いたら大須さんが笑ってくれるようになった。そんな気がする。

 気付けば大須さんとの思い出も随分と増えた。


 元々は、ゲームを遊ばなくなってしまった大須さんが、またゲームを遊んでくれたら良い、と思って始めたことだった。

 でも、きっとそれは自分への言い訳だったんだ、と思っている。だって、大須さんとボドゲを遊ぶのは楽しいから。何より俺が、そうしたいから。

 大須さんの体質で体験するゲームは、本当にそのくらいめちゃくちゃ魅力的だ。なんなら、ずっと遊んでいたいくらいに。


 ゲーム嫌いだった大須さんだけど、今はもう普通にボドゲを遊べるはずだ。体質さえなければ。

 そして大須さんが俺と二人で遊んでいるのは、体質があるからだ。

 大須さんの体質がなくなって、普通にボドゲを遊べる日がくると良いと思いつつ、心のどこかでは体質がこのままならずっと二人で遊んでいられるとも思ってる。


 きっと、俺はずるいことをしている。


 『ドミニオン』は、毎手番(ターン)で自分の山札(デッキ)に新しいカードを増やしてゆく。

 でも、カードが増えすぎた山札(デッキ)では動きが遅くなって、かえって弱くなってしまう。


 大須さんとの思い出を抱えすぎて、俺はきっと身動きが取れなくなってしまったんだと思う。


 いつかゲームが終わってしまう前に、ちゃんと動かないと。

 そう思いつつ、俺はまた、大須さんと楽しく遊ぶだけ。いつまでも終わらないで欲しいと思うだけ。同じことを繰り返すだけ。


 大須さんとの思い出を増やしながら。





『ドミニオン』

(現在は第二版が販売中)


・プレイ人数: 2人〜4人

・参考年齢: 8歳以上

・プレイ時間: 約30分




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