22-5 隣にいてほしい
次にリスが運んできた端切れ布三枚を見比べる。
「縫い付けの時間が短い方が良いよね」
「そうだね」
「そうすると、この二マスの端切れだけど、小さいけど良いのかな」
わたしが指差した端切れは、二マスの小さなものだ。縫い付けの時間は一マス。必要なボタンは二つ。
「相手の布地、もうほとんど埋まってるんだよね。残りは一マスが二箇所と二マスが一箇所。だから、相手が買える端切れはもうこの二マスのものしかないんだよ」
角くんがどうして相手のことを言い出したのかがわからなくて、わたしは瞬きをして首を傾ける。
わたしの表情を見て、角くんはちょっと笑って言葉を続けた。
「つまり、この二マスの端切れを残しておけば、相手は二マスの隙間を埋めることができるかもしれない。でも、この二マスの端切れが残らなければ、相手はもう隙間を埋めることができないってこと」
「なるほど。そういうことも考えるのか」
「まあ、本当にちょっとだけだけど、少しでも可能性は上げておいた方が良いと思って。それに、それ以外の端切れは必要な時間が六マスと五マスで、そっち選んじゃうともうほとんど何もできなくなっちゃうし」
角くんが端切れの形が並んでいる紙を指差した。その上の形はもうほとんど残っていない。それを辿って、今リスが持ってきた端切れの一つ先で指が止まる。
「それから、この一つ先には必要な時間が二マスの端切れもあるし、今はこの端切れで粘って良いと思う」
リスがちらちらと角くんとわたしを見比べて、たんたん、と足を鳴らした。
「お決まりですか?」
いつもの台詞に、わたしは笑って頷いた。
「はい。こちらをお願いします」
「それではボタン二つになります」
ボタンは今二十個もある。そこから二つ取り出してリスに渡す。リスはいつも通りにボタンと残りの端切れをしまった。
いつもみたいにテーブルから降りるかと思ったら、リスはそのままそこにちょこんと腰を降ろしてしまった。
「次もお客さんの番ですからね。縫い終わるまで待たせてもらいますよ。外は寒いので」
「ええ、どうぞごゆっくり」
二マスの端切れはすぐに縫い終わって、またわたしの番だった。リスがまた端切れ布を三枚、鞄から取り出す。
時間が二マスのT字の端切れ布を手に取って隣を見上げると、角くんが「大丈夫」と言うように頷いた。
「これにします」
「それはボタン七つです」
「はい、これでお願いします」
ボタンを七つ、リスの前に並べると、リスは一つ一つ数えながら鞄にしまった。けれど収入もあって、今度は鞄からボタンが十六個も出てきた。
小箱の中には、合わせて二十七個のボタンがある。ボタンの心配はもうしなくても良いけど、布地の隙間はまだなかなか埋まらない。
T字の端切れを縫い終えるまで、リスはテーブルの上でくつろいでいた。鞄からくるみのかけらを出してかじっている。その様子が可愛らしかった。
そして、次に出てきた端切れから選んだのは、L字の端切れだ。ボタンは十個必要だけど、時間は三マスで良い。
時間一マスの端切れもあったのだけど、それは真っ直ぐに五マス必要で、それを置いたら他の端切れが置けなくなりそうだからやめることにした。
ボタン十個を支払って、今度こそリスはテーブルを降りて帰っていった。
次は相手の番。でも相手はもう端切れ布を買えない。パスするしかない。
それでまたわたしの番。わたしはもう、時間切れまで後一マスしかない。二マス以上時間がかかる端切れを買ってしまえば、それが最後になってしまう。
三枚出てきた端切れの中に、時間が一マスのものがあったので、それを選んだ。T字が二つ互い違いにくっついたような変な形をしていて置きにくいけど、これを選ぶしかない。
「お代はボタン二つですよ」
「はい、これでお願いします」
ボタン二つをリスに渡して、今度はこれを布地のどこに置こうかと悩む。引っくり返したり、回してみたり、いろいろやってみたけど、どうやっても隙間ができてしまうみたいだった。
「ここまできたら、全部埋めるのは無理だと思うから、ここに一マス隙間ができるのは仕方ないって割り切るしかないかも」
角くんの言葉に頷いて、一マスの隙間を作りながら端っこに縫い付けることにした。
そして、次もわたしの番。これが最後だ。
「最後はどれだけ時間がかかっても良いから、できるだけ隙間を埋められる端切れを選ぶと良いよ」
角くんのアドバイスに頷いて、端切れ布を選ぶ。一番大きな六マスの端切れ布を選んだ。ボタンが七つで時間が四マス。
真ん中にある大きな隙間に置いたけど、隙間はまだたくさんあった。
それでも、これが最後の行動。
リスが最後の収入としてボタン二十個をくれた。それを合わせて、ボタンは二十八個になった。
相手プレイヤーがパスをして、ゲームが終わる。
銀のプレイヤーが最後に持っていたボタンは三十二枚。七マスのボーナスと合わせて三十九点。埋められなかったマスは四マスでマイナス八点。つまり、三十一点。
わたしはと言えば、二十八枚のボタンで二十八点。埋められなかったマスは九マスもあった。マイナス十八点で、たったの十点だった。
隙間だらけの布地を広げて、眺めて、溜息をつく。角くんの言う通りに難しいゲームだった。
でも、と隣を見る。
「残念だったね」
角くんが布地を見詰めて、悔しそうに眉を寄せていた。
その横顔をぼんやりと見ていた。確かに悔しいのは悔しい。けど、それだけじゃない気持ちがあった。
角くんと別のプレイヤーとして競うのも楽しいし、そうやってちゃんと対等でいたいって思ってる。でも、こうやって一緒に遊ぶのも楽しい。
時々は、こうやって一緒に遊びたい。同じ立場で、同じことに悩んで、同じように悔しがって、笑って、そうやって隣にいてほしい。そう思うのは我が儘だろうか。
そんなことをぼんやりと考えているうちに、気付けばゲームは終わって、元の──兄さんの部屋に戻っていた。




