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21-3 妖精の強さは魔力で決まる

 次の場所に実った星苺(ほしいちご)は五つ。

 最初にカードを選んで出すのは、直前に星苺を取ったプレイヤーだと(かど)くんが言った。だから今回は、わたしがカードを出す番。

 星苺が実るのは最大で六つらしいので、五つというのはかなりの数だ。だったら、さっきよりも大きい魔力の妖精の方が良いんじゃないだろうか。

 でも、「22」は出し過ぎだろうか。悩んだ末に、わたしは「17」のカードを選んだ。ピンク色のトカゲのような妖精だ。

 (かど)くんはわたしの顔をじっと見た後、ちょっと考えてから口を開いた。


「手札を出さないことを選んでも良いんだ。俺は今回パス。今回の星苺はもう諦めるってこと」

「それって、わたしのカードがいくつでも、勝ちってこと?」

「そうだね。あの五つの星苺は瑠々(るる)ちゃんのものだ」


 カードを表に向ければ、服を着たピンク色のトカゲが出てきて、星苺を収穫して戻ってくる。わたしはそれを網目のバッグに受け取った。

 バッグの中の光がぼんやりと大きくなった。


「なんだか、ちょっと拍子抜けな感じかも」

「まだインスト中だからね。さあ、三ヶ所目に行こう」


 それで三ヶ所目に実っているのは四つの星苺だった。またわたしからカードを選ぶ。

 さっきは五つの星苺で「17」を出した。今度は四つだからそれより小さな「14」を選んでみた。木の体の妖精で、頭の葉っぱを飾るように花が咲いている。それから、両腕に蔦が飾りみたいに巻き付いていて、その蔦に星苺が一つずつ飾られていた。


「じゃあ、俺も今度はカードを出すね」


 そう言って、(かど)くんがカードを一枚伏せて置く。


瑠々(るる)ちゃんは、二枚目のカードはどうする?」

「ええっと、二枚目は出さない」


 わたしの言葉に頷くと、(かど)くんはにいっと笑った。


「俺は今回二枚目を出すよ」


 そう言って、もう一枚のカードを伏せて置く。

 それから二人でカードを公開。(かど)くんのカードは「12」と「11」だった。野菜カゴを持ったネズミと、ドレスのような鱗とヒレを貝殻で飾った妖精。


「カードが二枚ある場合、比べる魔力は二枚の合計になるんだ。瑠々(るる)ちゃんは一枚だからそのまま『14』で、俺は『12』と『11』の二枚だから合計で23。だから俺の勝ち」


 木の妖精は、(かど)くんの二体の妖精を見て腕に飾りに着けていた星苺を二体に差し出した。(かど)くんの二体の妖精は、受け取った二つの星苺と実っていた四つの星苺、合わせて六つの星苺を持ち帰ってきた。


「どういうこと?」

「負けた妖精が星苺を最初から持っていた場合、勝った妖精はその星苺も手に入れることができるんだ。今みたいにね。大事なルールだよ」

「そうなんだ。じゃあ、その星苺は全部(かど)くんのものってこと?」

「そういうこと。その妖精がいくつ星苺を持っているかは、カードの右下に描いてあるよ。魔力が多い方が、たくさんの星苺を持ってる」

「え、じゃあ、魔力が多い妖精を出して負けたら、星苺もいっぱい持っていかれちゃうってこと?」


 ただの数比べじゃなかった。魔力が大きい方が勝つんだから、魔力が大きい妖精を出せば良いかと思っていた。

 でも、それだと(かど)くんに星苺を渡すことになってしまうかもしれない。だから、使いどころはちゃんと考えないといけないってことだ。

 悩み始めたわたしとは対照的に、(かど)くんは楽しそうに笑った。


「そうそう。そこがこのゲームの面白いところなんだ」


 それで今度は四ヶ所目。星苺の数は六つ。

 さっき勝ったのは(かど)くんだから、(かど)くんから先にカードを一枚選んで伏せる。


「待って。魔力の数っていくつからいくつまであるの?」


 わたしの言葉に、(かど)くんは「ああ」と頷いた。


「そうだったね。魔力は一番小さいのが『2』で、一番大きいのが『25』だよ」

「わかった、ありがとう」


 一番大きいのが「25」。わたしは残り三枚のカードを見る。「6」と「22」と「25」。「25」が一番大きい数なら、「25」を出せば負けないんじゃないだろうか。

 でも、(かど)くんが二枚目を出したらわからないのか。(かど)くんは二枚目を出すだろうか。

 (かど)くんの様子を伺って見上げると、(かど)くんはふふっと笑った。


瑠々(るる)ちゃん、あくまで今はインスト中だからね。勝ちも負けもまだ気にしなくて良いよ」

「わかってるけど。でも、せっかくなら勝ちたいなって思って」

「楽しそうで良かったけど」


 (かど)くんは楽しそうに頬杖をついた。なんだか余裕そうに見えて悔しい。

 それでわたしは、やっぱり勝ちたい、と思った。

 わたしは「25」のカードを伏せて置いた。苔むした木の、老人のような姿の妖精だ。頭には鳥の巣が乗っている。

 (かど)くんが二枚目を出さなければ、わたしが勝てるはず。


「じゃあ、俺は二枚目を出さない。瑠々(るる)ちゃんは二枚目どうする?」

「わたしも出さない」


 ほっとして、わたしは頷いた。

 二人でカードを表向きにする。(かど)くんのカードから現れたのは、服を着た虫のような妖精だった。魔力は「7」。

 わたしのカードから現れた大きな木の妖精を見て、さっとどこかに飛んでいってしまった。


「やった」


 六つの星苺を手に入れて、思わず声が出てしまった。

 (かど)くんは悔しがる様子もない。それはやっぱり、ルール説明のつもりだからだろうか。手加減しないっていうのは、ルール説明が終わってからのつもりなんだろうか。

 星苺が手に入ったのは嬉しいけど、わたしはなんだか少し物足りなさも感じていた。


「じゃあ、次はいよいよ五ヶ所目だね」


 次の場所に実った星苺は二つ。

 負けても良いやと思って魔力が「6」のカードを選ぶ。小さなキノコの妖精だ。魔力が小さい妖精は、どうやら星苺を持っていないらしい。だから、負けても星苺を取られることはない。

 わたしがカードを伏せると、(かど)くんはパスをした。

 小さなキノコの妖精が星苺を二つ持ってくる。それを網目の袋に入れる。これで手に入れた星苺は十六個だ。

 袋の中を覗き込んで、これってわたしの勝ちってことだろうかと考えたところで(かど)くんが口を開く。


「で、五ヶ所で星苺を収穫して、ここまででゲームの前半が終わり」

「前半?」

「そう。後半の前に、残っている手札があれば、二枚まで後半に持ち越せる」

「え、そうなの?」


 わたしの手元には、「22」のカードが一枚だけ残っていた。(かど)くんは二枚。

 後半があるなら、カードの使い方をもっと考えないといけなかったのかもしれない。


「その上で、さらに六枚のカードが増える」


 わたしの手元のカードがどこからともなく六枚増えて、七枚になった。増えたカードは「2」とか「5」とか「9」とか、小さい数が多い。

 それで、さっきまでは手札の数が大きかったんだ、と気付いた。

 (かど)くんがキノコのテーブルの上に地図を広げる。


「後半もやることは同じ。五ヶ所で星苺が実るから、手札の妖精の力を借りてそれを取り合う。後半が終わった時点で持っている星苺が多い方がゲームの勝者」


 地図を見ると、二ヶ所目のところにはぼんやりと光った鍵の絵が描かれていた。わたしはそれを指差した。


「この鍵は何?」

「ああ、これはね」


 (かど)くんは、三ヶ所目の光を指差した。そこには、立派な門の絵が描かれている。


「秘密の果樹園に入るための鍵。この果樹園では、星苺を十二個収穫できる。ただし、鍵とこの門、両方手に入れないと駄目なんだ」

「鍵だけ持ってても駄目ってこと?」

「そう、逆に門の方で勝っても鍵がなければ中には入れないから星苺は手に入らない」

「両方か……でも、星苺十二個って多いよね」

「多いね。まあ、それでも星苺六個を二回手に入れていれば、同じだけになるから悩ましいところだけど」


 一ヶ所目は星苺が六つ。二ヶ所目が鍵で、三ヶ所目が門。四ヶ所目は二つ、五ヶ所目は五つ。

 わたしは地図と手札を見比べて、どのカードをどこで出すかを悩み始めてしまった。

 その様子に、(かど)くんが楽しそうな顔をする。


「これでこのゲームの遊び方は全部。一回このまま最後まで遊んでみようか。インストは終わったから、俺ももう手加減しないよ」


 わたしの顔を覗き込んで、(かど)くんが首を傾ける。それを見返して、わたしは頷いた。


「ルールは大丈夫だと思う。手加減も、しなくて大丈夫」


 わたしの言葉に、(かど)くんが楽しそうに目を細めた。




 後半の一ヶ所目は星苺が六つ。

 わたしは「22」と「9」の妖精を出したけど、「20」と「19」の妖精を出した(かど)くんに負けてしまった。「22」の妖精は三つ、「9」の妖精は一つの星苺を持っていたから、収穫した分と合わせて(かど)くんは十個の星苺を手に入れてしまった。

 二ヶ所目は鍵。(かど)くんがカードを二枚伏せて、わたしも「21」と「10」の二枚。公開して比べてみれば、(かど)くんは「23」と「8」で同点だった。


「同点の場合は、どちらのものにもならない」

「じゃあ、鍵はどうなるの?」

「誰のものにもならずに消えちゃう」


 現れた妖精たちは、顔を見合わせた後に何もせずにどこかに消えてしまった。

 それで三ヶ所目の門では、二人ともパス。鍵がなければ星苺が手に入らないから、カードを出す意味がない。

 四ヶ所目の二つの星苺は、わたしが「5」で(かど)くんが「3」だったからわたしの勝ち。

 でも最後の五つの星苺では(かど)くんが勝った。わたしは残っていた「18」と「2」の妖精を出したけど、(かど)くんの手元に残っていたのは「24」と「16」だったのだ。

 わたしが集めた星苺は全部で十八個。(かど)くんは二十三個だった。わたしは前半であれだけ星苺を集めていたのに、後半であっさりと負けてしまった。


「悔しい」

「いや、まあ、ほら、今のはインストで、練習みたいなものだから。勝ち負けは関係ないって言ったよね」

「それでも悔しいものは悔しいの」


 唇を尖らせると、(かど)くんがふふっと笑う。


「これでゲームの流れはわかったよね。次が本番だよ」

「わかってる。次はちゃんともっと考えるし、勝てるようにするから」


 ゲームの前半で、わたしはやっぱり手加減されていた。

 前半はわたしがルールをわかっていなかったし、説明のためにって理由も理解できる。それは仕方ない。

 でも、それでも勝てなかったのだ、わたしは。


 (かど)くんはゲームが強い。(かど)くんは自分でそんなことないって言うけど、わたしから見たらじゅうぶん強い。

 そんな(かど)くんは、やっぱりわたし相手じゃ物足りないんじゃないだろうか、なんて思ったりする。

 わたしは、(かど)くんがちゃんと手加減なしでプレイできるような、それで楽しく遊べるような、そんなふうになりたい。一緒に遊ぶなら、ちゃんと対等に遊んでいたい。

 だから、次はもっと──もっと、と思う自分の気持ちがもどかしい。


 (かど)くんを見上げれば、(かど)くんもわたしを見下ろした。いつもの機嫌の良さそうな、楽しそうな顔で。





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