農民の語り部は「聖女伝説」の裏側を暴露する
フロイト大陸は五つの国で成り立っている。
古代。五国は争いが絶えなかった。
しかし各国の聖女達による一夜の会談のあと和平条約が結ばれる。
どんな賢君よりも聖女達は讃えられる。
各国は聖女達がもたらした「神託」に従い、小競り合いはしても戦争をすることはなかった。
やがて大陸は黄金期を迎える。
和平の立役者である五人の聖女達は後世に継がれる伝説となった。
時を経て千年後。
ここに「聖女伝説」を語る農民の青年がいた。
村人達は彼を「語り部」と呼び、今宵も酒の肴に小話をせがむ。
語り部は、喉を鳴らし、呼気を震わせ、声色を変化させ物語を紡ぐ。
星々の瞬く間のみ語られる本当の『聖女伝説』のはじまりだ。
『神々に愛された五国の聖女達
運河の国 砂漠の国
オーロラ国の聖女は ヒトの身体に耳と尻尾がついた獣人
鋼の国に 太陽の光が届かぬ地底湖の国
邂逅の一夜
聖女達は神託など 受けとっていない
ただ ヒトとして 自由を欲したのだ――』
語り部の声色が変化する。
村人達は語り部が「二人」いるように見えて、ぐびりと酒をあおる。
『砂漠の聖女様、我が運河の国の料理はいかがです?』
『もぐ。……うま、美味しいです』
『それは白身魚のムニエルという料理です。あら、鋼の聖女はオーロラの聖女のモフモフ尻尾がお気にいりのご様子』
『おれ……私も獣人はカッコイイと思う、です』
『オーロラの聖女は大陸中を旅するという夢があるようですわ』
『聖女が? 難しいだろう』
『五国が和平を結べば良いのです』
『できるだろうか』
『やるのです。皆の願いのために!』
村人達がヒューと口笛を吹く。
『オーロラの聖女は世界を見たいと
鋼の聖女はモフモフと暮らしたいと
砂漠の聖女は美味しい料理を
地底湖の聖女は 世界中の書物を収集したいと
運河の聖女は 自由が欲しいと願った
すべてを叶えるため
和平を結ぶと決めた――』
語り部の声色がまた二つに変化する。
『運河の聖女、自由の先に望むものは何だ?』
『私は恋がしたいのです。砂漠の……大魔王様』
『んなっ! バ、バレて……』
『ふふ。聖女ですから』
村人達は「女装食いしん坊大魔王さまー!」と沸き立つ。
『そして運河の聖女は 大魔王と恋に落ちた
聖女伝説は
四国の聖女と大魔王の夢物語だったのだ』
語り部が手を打つと、村人達が一斉に眠りに落ちる。
最後の台詞だ。
『そして聖女と大魔王は
山奥でいつまでも幸せに暮らしました……。
そうだろう? 我が妻よ』
ーーええ、大魔王様。
部屋の片隅から返事があった。
お読み頂き有難うございました。
1000文字短い!
白身魚のムニエルを、おにぎりにするかは少し迷いました。
テーマがあり楽しく書かせて頂きました。