団子
「その団子、いらないなら私に下さいな。」
夕暮れの山のとある宿屋で、串に刺さった団子を持ち、ボケーっと座っている老人に向かって私は言った。
「駄目じゃ駄目じゃ、この団子はやらん。」
老人は頑なに団子は譲らなかった。
「なぜだい?あんた昼間っからずっと団子を食わずに玄関に座っているだろ。食わないんだろ?」
「ええいうるさい!この団子は絶対にやらんぞ。」
「そうかい、悪かったね」
私はあきらめて自分の部屋に戻った。なんと変な老人なんだ。私はつくづくあきれた。
日が沈んだらこの宿を発つ予定であったため、仮眠を取り、日が沈むのを待つことにした。
しばらくして目を覚ました。いけない。すっかり寝てしまった。外は満月が闇夜を照らしていた。
私は急いで荷をまとめ、玄関に向かった。
戸を静かに開け宿を出ると、その先に、あの老人が座っていた。
案の定串にささった団子はそのままであった。
老人はその団子を月に向かってさしていた。
「あんた、とうとう気でも違ったか?」
そう言った瞬間、急に空が輝きだした。目も開けられない眩しさだった。
ようやく光に慣れてきて、目を開けると、容姿端麗な美しい美女が老人の元に降り立っていくのが見えた。
「お待たせしました。さあ、向かいましょう。」
「はい、月姫さま。」
そう言って老人と月姫という名の美女は月の方角へ消えていった。
輝いていた光も消えていき、闇夜が再び姿を現した。
ふと下を見ると、あの老人の団子が落ちていた。
興味本位で、私はその団子を手に取り、満月に向かってさしてみた。
そこには月まで届く、光り輝く綺麗な団子の道ができていた。