特に内容のないお話
公園の入口に立った時
聞き慣れた声が聞こえた気がして辺りを見回した
耳を澄ましてみても聞こえてくるのは
さめざめと降っている雨の音や
傘が雨を弾くポツポツという音
晴れている日ならまだまだ子供のはしゃぐ声が聞こえる時間
今日は人影もなく、酷く静かだ
「_________」
いや、やはり誰か居るようだ
さっき聞こえた声は気の所為ではないらしい
しかし、その姿は見えない
なんだか妙に気になって、公園に足を踏み入れた
ピチャ…ピチャ…
静かな公園に響く私の足音
風が吹いて木が揺れる
パッと公園を見回しても、やはり誰も居ない
首を傾げる
「_______」
しかし、声は聞こえる
もう一度見回して、見つけた
滑り台の下が鎌倉のようになっている
きっとあそこだ
足を運ぶ毎に聞こえる声は大きく、近くなる
「お前は綺麗だなぁ」
やはり、聞き覚えがある
そっと中を覗いた
「あ、咲夜くん」
まさか、隣の席の人だとは思わなかった
しかし彼の家は反対方向だと聞いたことがある
「こんな所で何してるの?」
「こいつ追い掛けてたら雨降ってきちゃって」
苦笑いをしながら咲夜くんが目を向けたのは
自身の膝の上に乗せている白猫
恐らく、子猫だ
彼の手に顔を擦り寄せ
気持ちよさげにゴロゴロと喉を鳴らす
「綺麗な子だね」
「あぁ、多分野良なのにな」
一言づつ声を発して、静かになる
猫の喉を鳴らす音
さっきより少し弱くなった雨の音
まるで世界に私達しかいないような静寂
普段なら気まづい静けさも
今は不思議と心地よかった
特に会話をすることもなく
時間が過ぎる
「天野さんは、なんでここに居んの?」
そういえば、と目が合う
「うーん、普通に帰るところだったんだけど
咲夜くんの声が聞こえて、気になって」
そう答えれば、質問してきたくせに
あまり興味はないようで「ふーん」なんて素っ気ない返事
「帰らないの?とか、言わないんだね」
「別に、気まづく無いしね」
「そっか」
また、会話が途切れる
咲夜くんは猫を、私は外を見る
また、雨が弱くなったように感じる
もうすぐやむだろうか
結局、雨がやむまでの約30分
特に話すことも無く時間を過ごした
「それじゃ、また明日学校で」
立ち上がった咲夜くんは
どうやら猫を連れて帰るらしい
「うん、また明日」
反対方向に歩き出せば
足音も直ぐに遠のく
さっきまでの静寂が嘘のように
辺りには鳥の声が響いていた
本当にただ内容のない日常のごく稀な部分を
掻い摘んで書き出しただけです