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神楽坂先輩は動かない

「ちょ、ちょっと会長、朝っぱらから何やってんですか!?」


 俺の前でスカートの裾を掴み、徐々に上げていこうとする神楽坂先輩から顔をそむける。


「ん~? 私はただ、潔く抜き打ち検査を受けようとしてるだけだが?」


「じゃあ正宗先輩のほうに行ってください。先輩のほうが女子生徒担当なんで」


「いやだ」


「え~……」


 そう言って、神楽坂先輩は動かない。後ろには九条先輩と大和先輩もいるが、梃子でも俺のところから動かない会長の様子に、ただただ呆れて苦笑しているようだ。


「おい、神楽坂。ふざけてないで、さっさとこちらに来い。あまり三嶋を困らせるな。あと、大和が詰まっている」


「私はふざけてなんかいないよ正宗。私は君じゃなく、後輩にチェックしてもらいたいんだ。あと、敦のことはわりとどうでもいい」


 大和先輩、ひどい言われようだ。お互い名前で呼んでいるように、神楽坂先輩とは幼馴染らしいが、俺にしてくるようなスキンシップは、二人の間にはない。


「あの、先輩。他の生徒の検査もしなきゃなんで、ここは正宗先輩に従って欲しいんですけど」


「ふうん……君、やけに正宗の肩をもつじゃないか」


 どきりとする。

 

 正直なところ、もっている。もっと正宗先輩の好感度を上げておきたいと。


「い、いやそんなことない、と思」

「い~や、ある!」


 かぶせ気味に神楽坂先輩が反論してきた。


「朝登校してからずっと物陰から君を観察していたが、なんだい、正宗に頭をよしよしされて鼻の下を伸ばしちゃってさ」


「朝っぱらからなにやってんですかアンタ」


 来ているならさっさと声をかけてほしい。ただ、正宗先輩の胸をついついガン見していたことはバレてないようだったので、ちょっとだけほっとしたのはここだけの秘密だ。


「とにかくだ、後輩。君には生徒会長である私がいるんだから。よしよしされたいんだったら、私がやってやるから。もうあの機動要塞おっぱいと過度な関わり合いを持たないこと。いいね?」


「き……機動要塞て」


 そのネーミングには内心大いに賛成したい俺である。絶対に正宗先輩の前では言わないけど。


「……ああもう、仕方ない。そんなに言うんなら好きにしろ。三嶋、やってやれ」


「いいんですか?」


「じゃないと検査が進まないからな。それに、今の神楽坂が私の言うことを聞くとも思えんし」


「ふん。初めから私の要求に従っておけばいいのだ、この頭でっかち胸でっかちめ」


「む、胸は余計だっ! バカ!」


 赤面して胸を抑える正宗先輩だが、もちろん腕一本で隠しきれるわけもなく。


 しかし、今日の神楽坂先輩は朝から様子がおかしい。いや、だいたいいつも昼になるとおかしくなって俺をからかって困らせるのだが。


 まさか正宗先輩と俺が親しげにしているのを嫉妬……いやいや、それはない。


 だって、神楽坂先輩と俺はそういう関係ではないのだ。仲はいいかもしれないが、それはあくまで先輩と後輩、上司と部下……よい友人関係みたいなものだ。


「なあ、神楽坂。一応聞いておくが、君は本当に三嶋とは付き合ってないんだよな?」


「…………」


「おい」


「ん? ああ、すまん、ちょっとぼーっとしてて。……もちろんだ。私と後輩は付き合ってなどいない。なあ?」


「ええ、そうですね。九条先輩も大和先輩も、そう思いますよね?」


「「……まあ」」


 なぜそこで微妙な顔をする。


「付き合ってないのに、どうして三嶋にそこまでご執心なのか……まったく、神楽坂の頭を二つに割って中身をのぞいてやりたいよ」


「正宗、それ冗談だよな? どうして竹刀をこっちに構えるんだ? なあ? なんでこっちに近寄ってくるんだ?」


 正宗先輩が言うと背中の竹刀でわりと実現可能だと思うので、そういうことを言うのはやめてほしい。


「まったく……まあ、神楽坂のことなど私にとってはどうでもいいことだがな。さて、そろそろ全員分終わったようだし、私は教室に戻るよ。三嶋、君も神楽坂の検査が終わったら、無駄話などせず速やかに教室に行くように。いいな?」


「はい、正宗先輩」


「うん、いい返事だ。じゃあまた放課後にな」


 そう言って、竹刀を背中に戻した正宗先輩はその場から去っていく。


「ふん、なにが『また放課後にな』だ。お前みたいな悪い虫、後輩に二度と近寄らせるものか。おい敦、塩だ、家庭科室から塩を持ってこい」


「今日に関しては美緒の方が邪気払いされるべきだと思うよ」


 それについては大和先輩に同意である。


 その後速やかに神楽坂先輩の抜き打ち検査をしたわけだが、スカートをたくし上げて俺を挑発してきたわりには、ばっちり膝丈だった。真面目か。

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