眷属との帰還
「【権能】か、随分気前がいいな、迷宮主としての【固有魔力】の覚醒すら渋ったお前が……まさか【権能】とはな。さすがに事の重大さが伝わる」
『確かに僕は崖っぷちだよ。でも【権能】を与えるわけじゃない、そもそも魔王としても【嫉妬】を覚えている君のことだ、【権能】に辿り着くのも時間の問題さ』
神は何気にいうが、権能まではかなり時間がかかっただろう。
まず迷宮主アキタケには最初期には本当に戦う力などありはしなかった。
魔力も平凡以下、身体能力など最低ランクと評価されるGである。
【EX→S→A→B→C→D→E→F→G】
元々迷宮主は魔法特化型であり、前線にはほとんど出ない。
それは臆病だということでもあるが、それ以上に眷属が強過ぎることも一つの理由である。
迷宮主【アキタケ】は転移直後に現状を確認した。
まず迷宮とは世界に無数に存在する霊晶核と呼ばれる魔力の源から作られるものであり、迷宮主とはその迷宮の創造者のことをさす。
迷宮には階層と呼ばれるシステムがあり、上に登る迷宮もあれば下に潜る迷宮もあり多種多様である。
そして霊晶核を破壊されれば迷宮主は消滅し、迷宮主が死亡すれば霊晶核は砕ける。
この深刻さだ。
弱点が二つになった。それは大き過ぎるハンデ。
そして強制転移ということもあり詐欺師だ
本来ならDPと呼ばれる魔物以外の全ての生物から得ることの出来るものがある。それは喜怒哀楽であり、欲望であり、生命であり、血肉。その全てを還元することが出来るのだ。
そしてそのDPは迷宮の設備や戦力の充実に大きく貢献する。
例えば【魔物ガチャ】。一見ソシャゲのような仕様だが、見たまんまソシャゲだ。ただ一つ付け加えるなら本物が出てくる。【竜】を弾けばドラゴンが出てくるし凡そそれに不可能はない。
次に【装備ガチャ】だ、【魔物ガチャ】同様にDPを消費することで引くことが出来る。ごく稀に御伽噺の聖剣等が落ちるので、回す価値はある。
他にも【万物ガチャ】に【階層ガチャ】といった具合に四種のガチャが存在する。
それにDPの使い方はこれだけでは終わらない、一度ガチャでだしたものは全て買うことが出来る。しかし、同ランクとはいかない。たとえば魔物で最上級のEXを引き当てた時に買うことが出来るのは二ランク異常下の同系統の魔物になる。
例えるなら【rank:EX『不死王』】と呼ばれるアンデッド最強の魔物を引き当てたとする。すると不死王まで進化してたどり着くであろう行き筋、つまり魔物のツリーがあらかた解放されて、最下層のスケルトンまでツリーが埋まる。
購入することができるのはEXから二つ下のランクAの魔物からGのスケルトンまで購入することができ、ランクが低いほど価格が安い。
アキタケは初回限定rankS以上確定ガチャ《無料》で見事に【rank:S『怨賢者』】を引き当てアンデッド系の迷宮を作り起動が乗り、そのまま死ぬ思いをしながら様々な力を手に入れて最強まで登り詰めた。
『本当に君は凄い。迷宮主以外にも【魔王】の称号まで手に入れるんだ。更に権能を手に入れ神域にすら入ってこようとする。魔物以外は種族の超越なんて本来有り得ないんだけどね。流石だよ』
「世辞はいい、世界も渡ってやる、魔物因子もある程度までなら殲滅させてやる。だから早く権能を寄越せ」
『分かったよ。全く、君は力に取り憑かれているのに我を失わないんだね……いやなに、ちょっとした独り言さ』
『──じゃあ頼んだよ、アキタケ』
「ああ、できるなら二度と顔を見たくないな詐欺師」
アキタケの体に浮遊感が生まれる。
それは飛翔などではなく、次元の移動に近い。何度か次元の移動に経験があるが、特有の酔いが嫌いなのであまり乗らないでいた。
ジャリッ。土を踏む感触が足から伝わる。
たかが大地、たかが地面、しかし久しぶりに帰ってきたも考えれば感傷に浸ることも…………いや、ないな。
たいして帰ってきたかったわけでもないこの土地で、そんなことを思うわけが無い。
力を手に入れたいと思えば思うほど、根底にある怒りが湧き上がる。
人間という種族を超越したとしても、それは変わることがなかった。だが、復讐したいという訳でもない。
色んな矛盾を抱えてしまったが、それもいいことではないか。
完璧などつまらない、不完全こそが面白い。
「とはいえ、変わり果てた……と思っていたのだが、案外そうでも無いようだ」
500年後の世界。
もしかしなくとも世界は変わっているだろうと思っていたが、そういう訳でもないらしい。北極星の反射で過去の自分を見ることができるかもしれないな。
「まずは……『来いラテフ』」
詐欺師め、粋なことをする。
アキタケの魂と霊晶核は融合し、ある意味弱点が一つ減った。
そして捨てるつもりだった迷宮は魂と繋がることによって、収納扱いになっている。
言うなれば超小型迷宮を常に隠し持ち、不可侵と不可避の奇襲をかけられるという利点がある。
ラテフと呼んだのは、アキタケの初めての魔物の名前だ。
【怨賢者】初めはそれだけしかなかったが、アキタケが魔王の称号を会得したことで、【眷属化】という魔王となることで得られる能力があるのだ。
眷属化は非常に危険を伴うが見返りは爆発的だ。
名を授ける。
それが眷属化の始まりだ、魔王は眷属を十二体まで作ることができる。つまり名前を授けられるのは十二体までだ。それ以上増えることはないが、眷属が消滅した時に限りなく枠が一つ空く。
魔物にとって名は力である。
深い信頼や愛情友情などの目に見えない繋がりが強ければ強いほど、そして個体としての器が大きければ大きいほど眷属化で強化される。
ラテフもその中の一人、そしてアキタケの最強候補である四体の中にはいる強者でもある。
そして付き合いは文字通り一番長い。
眷属となってからのラテフのステータスは圧巻の一言に尽きる。
【ランク:EX 『怨魔女帝ラテフ』】
覚醒スキル:《無限増殖》《超越狂化》《天眼》
スキル:《死霊魔法》《闇魔法》《超広範囲》《不可侵》
見た目は人間と大差ない。黒目黒髪と日本人に近いのは、常にアキタケのそばで仕えてきたからだろう。
ポジションは後衛だがランクEXなので筋力なども不安はない。何より厄介なのが《無限増殖》である。半径10キロ以内なら任意でAランク以下のアンデッド系魔物を無限に作り続けることができ、毎秒100体作ることが出来る。そして許容限界がなく、常に一秒毎にAランクの魔物が100体という大隊が出来てしまう。
更に《超越狂化》というステータス超補正のスキルがあり、自軍ならば任意で《超越狂化》は使えるというぶっ壊れ。何よりこのスキルは元々理性を失うことでステータスを超補正するという諸刃の剣だが、アンデッドにそんな存在はなく実質ノーリスクで使えてしまう。
正真正銘のぶっ壊れ。
EXという最上位ランクなだけあり破格の性能だ。一つ下のSもガチャで出たら泣きつきたくなるほどの性能だが、EXが特別過ぎて感覚がおかしくなってしまう。
「参上しました、何用でしょうか我が君」
「では一つ、あの詐欺師から伝言を頼まれていないか?」
詐欺師のことだ。アキタケに直接言えないことを眷属達に教えている可能性がとても高い。
「ええ、伝言を承っています。『あちらとこちらの世界では時間の流れが全く異なる。500年経過したが、君の世界では5年程しか経っていない』との事です」
「……クソ、最後の最後まで面倒なことをしやがって」
迷宮主は霊晶核を壊されるか直接殺される以外で死ぬことはなく、不老の存在だ。姿が変わっていなかったから気にしなかったが……。5年しか経っていないことにアキタケは驚愕し悪態をつく。
どこまでも面倒事を運ぶあの詐欺師に積もるのは恨みばかりだ。