第5話 勇者VS魔王?
勇者コロンは目を覚ます。
いつもはややふてくされたような眼をして布団から出るコロンだがこの日は違っていた。
変わらぬ日々の中に見つけた一欠片の大冒険。優しくて面白い謎の三人組。西の方の空き家を買ったと言っていた、その情報がコロンをつき動かしていた。
他の町から来たのなら魔物たちを突破してきたという事でもある。秘密のルートでもあるなら聞いておかねばならない。
…そんな理由にかこつけて、コロンは楽しそうに家を出た。
そして西の住宅街に出た所でコロンは日常の終わりを理解した。西門からは町の外が見え、見える範囲に魔王城がある。そこまではいつもの光景だ。
しかしこの日はいつもの光景だけでは無かった。一年もの間巡回してただけのモンスター達が村を包囲する様に隊列を組んでいるのだ。
ゴーレムやオーガが前線を張り、空にはグリフォンやガーゴイルが飛び交い、後方ではウィッチやリッチ等の魔法を得意とするモンスターが杖を構えている。
どう考えても友好的な陣形で無いのは明らかだ。
そこにふと、見知った顔を見つけた。アカツキ亭で出会った女の子、ラミスだ。
ラミスは昨日とは違いレースの付いた可愛い服を着ていた。薄いビンクでありながらも子供っぽさはあまり無く、上品なドレスにも見える。
この町で買える服の中でも貴族しか買わないような上質な服装だ。何故ラミスにそんな服を買うお金があったのか、それは今あえて触れるところでは無いだろう。
問題なのはラミスがモンスター達に囲まれている事だ。
コロンはラミスを助けようと町の外へと駆けていく。
しかしその足は門を越えること無く止められてしまった。
コロンの目の前で起きた小さな爆煙、そしてタイミング同じくして振りかざされたラミスの杖。ラミスの仕業である事は火を見るより明らかだ。
どうしてこんな事をするのか、そう目で訴えるコロンにラミスはため息で返した。
そしてラミスの合図でモンスター達は隊列を変え、一本の道を空ける。そこからやってきた人物もまた、見知った顔だった。
コワモテなのに気さくな男性、カラン。その頭には角が生えていた。
「カラン…さん?」
「……勇者コロンよ、我が名はカラン。魔王カランだ!」
「…え?…でも」
「今よりこの町は我が魔王の領地とする!町人達は一人残らずころ…いや捕虜だ!皆こき使ってやる!老人も子供も一人残らず捕えて我の為に働かせてやる!」
「え?いや…あの…カラン…さん?」
「何だ勇者よ!命乞いは聞かんぞ!町を救いたくば秘められた力を覚醒させて我を殺して経験値を得て次の戦いに備えるのだ!」
「何ですか…その冗談」
「冗談などでは無いぞ!魔王を倒して終わりだと思うなよ!我より強い敵が明日にはやってくるはずだ、今から逃げたってもう遅いのだ。奴はどこまでも追ってくる。お前が勝てねばこの町は終わりだと思え!」
「え、えー…カランさん今からこの町を侵略するって進言してましたよね?何でこの町の心配してるんです?」
「んん!?んー………」
「ぷっ…あはははは。分かりました、明日ですね、教えてくれてありがとうございます」
「いや!分かっておらん!今のままでは…」
ハァ…
カランの言葉を一つの小さなため息がかき消した。ため息の主は先程モンスター達の隊列を変えた一人の女の子、魔女ラミス。
「カランさまぁ…もう良いでしょう。こんな茶番で勇者の力なんてぇ、覚醒しないと思うよぉ?最初の爆炎魔法だって殺傷力無いやつだしぃ、多分それも見抜かれてるよぉ?」
そう、コロンが最初にラミスに向けた疑惑の目。それは何で手加減した上にわざと外したのか?という疑問だった。
コロンだって伊達に勇者な訳では無いのだ。殺意が無い事くらいはお見通しだった。
その時点で茶番が確定し、ラミスはため息をついたのだ。
二度目のため息は魔王カランがそれに気付いてない事に対してだった。
「…では、どうしろと言うのだ。我にはこれ以上の策はない」
「そんなことより、カランさんが魔王だったんですね?」
「む…そうだが、魔王だと分かったなら敬語はやめよ。我は敵だぞ」
そうは言ってもカランに敵意は無く、敵意を向けて来ない相手に対して敵意を示す者が勇者に選ばれるわけも無い。コロンはただ笑っていた。
「どうして、私を殺そうとしないんですか?」
「魔王は…勇者には勝てぬ、いつか必ず勇者に殺される。長い歴史がそれを物語っておる。勇者は魔王を討ち果たすまでしぶとく生き残り、いずれ魔王を上回る力を手に入れるのだ。ゆえに我は勇者と敵対しないと決めた。……だが、上手くは行かぬものだな」
「ふふ、たぶん上手く行きますよ。私も、あなたとは戦いたくありませんから」
「我の話を聞いていたのか?おまえは勇者で、我は魔王だぞ」
「ええ、聞いてましたよ。あなたは魔王で、私は勇者です。作戦会議でもしましょう。そうですねぇ、またアカツキ亭にでも行きませんか?」
「う…、甘いのはもう勘弁しろよ」
「あはは、本当は苦手なんですね」
その後、一日かけて話し合いは続いたが、そのほとんどの時間はコロンによるカランへの説得だった。…そして、運命の時は訪れる。
多分次で終わりかもしれません。
ちょっと急ぎ足じゃないかって?
……てへ(可愛くない)