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第0.5話 魔王、街に降り立つ

魔王様のターン!


 魔王城、魔王の間にて我は部屋の隅から隅へと行ったり来たりを繰り返していた。


「あー!不安だ!良いのか、本当にこのままで良いのか!」


「カランさまぁ…不審者見つけましたよぉー」


「おあぁ!?お…おお…ラミス、いつの間に…いや!それより、不審者だと!?」


「うん…」


 ラミスは我を見つめたまま、我を指さす。

 ん?我の後ろ?……いや、誰も居ないが?

 ラミスは相変わらず我を指さしたまま動かない。


「…ん!?我か!?」


「うん…めっちゃ不審…かもぉ」


「我は魔王だぞ!?もうちょっと敬え!緊張しろ!」


「…あはは…無理かもぉ、なんか段々ヘタレになってるしぃ」


「んな!?…くっ!いや、良い。我もちょうど一人では煮詰まっておった所だ」


「何を悩んでたのー?……ですかぁ?」


「もう良い、無理に敬語使うな、逆に辛い」


「あはは…」


 この自称ゆるふわ魔女に我の崇高なる悩みが分かるとも思えんが、確かにウロウロしてるよりはマシだろう。


「勇者の事で心配してる事があってな。勇者の力とはどういうものか、我が言った事を覚えているか?」


「ええーと…魔王様に勝てるだけの強さまで成長出来る…だっけぇ?」


「そう、その通りだ。よく覚えていたな、忘れているものだと思っていたぞ」


「えへへ~褒められたぁ」


 いや、遠回しにディスったんだがな?


「しかし他にも言ったぞ?魔王を倒すまでの間は生き残る強運、そして魔物の悪事によって覚醒する秘められた力、これらは歴代勇者全てが持ち合わせていた特徴だ」


「んー…でもぉ、カランさまの飼い殺し計画なら大丈夫なんじゃないのぉ?」


「ん、んむ、確かにな。だが…勇者が勇者たる所以、もう一つの特徴があるのだ」


「…へー」


 ダメだこいつ、魔王たる我の話に全く興味が無い。


「…はぁ。あのな、いくら強い人間が居たとしても強いだけでは勇者とは言わん。勇者とは勇ましい者、英雄の頂点、つまり…物語の主人公たる人物の事を言う」


「あのぉ…言い方が遠回り過ぎて分からない…かなぁ」


「あー…つまりだな、勇者には物語を進める力があるのだ」


「なるほどぉー、停滞状態を維持出来るか不安、って事ぉ?」


「そうなのだ、なんだかんだ言っても魔女だな、理解が早くて助かる。…勇者は必ず町の外に出ようとするだろう、それが無理となると今度は世界が勇者を動かし始めるはずだ。そうだなぁ、例えば…魔物達が我慢出来なくなり勇者や町を襲う、とかな」


「それは心配無いかもぉ…」


「ん?どういうことだ?」


「魔物達皆勇者ちゃんに対しての敵意ゼロだもん」


「それは…芝居だろ?我がそう指示したから従っているだけだろ?血気盛んな魔物達が本心から勇者への敵意を失う訳が無い」


「ほんとだよぉ…んー…そんなに不安ならカランさまも町に視察に行けば良いよぉ」


「わ、我が!?いやしかし…我には角が!どう見ても人間では無いぞ!」


「町の外から見れば良いよぉ。っていうか、カラン様って角以外は割と人間ぽいよぉ?角隠せば行けるよぉー」


 確かに我は種族的には魔法使い。魔女ラミスや魔導師ミッツウも種族は魔法使いだから二人とは同系統の種族という事になる。

 魔法使いの先祖は闇堕ちした人間だからな、似ていて当然だ。

 しかし我は魔法使いと悪魔のハーフであるがゆえに角が生え、瞳は紅く、翼が…まぁ、翼は収納出来るから良いか。

 確かに大きめなフード被ってカラーコンタクトでも付ければいけるかもしれんな。


「分かった、ラミスよ。確かお前は前にも町に行っておったな?案内せよ」


「うん、良いよぉ。ちょうど行こうと思ってたのぉ」


「え?何しに?」


「うーん…ご飯とかぁ?魔王城より美味しい物食べれるのぉ」


「お前さてはしょっちゅう行ってんな!?」


「週……7くらい?」


「それは毎日というのだ!」


「…えへへ」


「…はぁ、もう…良い。案内せよ」


「うん」




 魔王城の門を出る時に大きなローブを羽織った男、魔導師ミッツウが追いかけて来たのが見えて立ち止まる。ラミスは我の陰に隠れようとしているが今更無駄だろう。


「ラミス…最近町に入り浸っているそうじゃないか」


「…お師匠様には関係ないもん」


「魔女だとバレたらどうするつもりだ!人間は魔女を拷問にかける種族だぞ!」


「…大丈夫だよぉ」


「全く…お前の事を心配して言ってるんだ、分かってくれ」


「………」



 ダメだな、これは拉致があかないやつだ。魔王たる我が仕切ってやろう。


「ミッツウよ、そんなに心配ならお前も着いてこい。自分の目で確認せよ。我も勇者をこの目で確認する為に行くのだ」


「ま、魔王様がそう仰られるのであれば…」



 ……… …… …



 ラミスの歩くペースに合わせても町まで15分もかからずに着いてしまった。というか、遮蔽物が無いからずっと町見えてた。


「あ…カラン様、ミッツウ様、ちょっと待っててぇ…鞄取ってくるぅ」


「はぁ?往復するのは流石に面倒だろ」


「大丈夫ぅ」


 そう言ってラミスが向かったのは一軒の民家。

 まさか!人間の家から金盗む気か!?悪事は働くなとあれ程言ったと言うのに。

 こうしてはおれん!ラミスを止めなくては!



「あれぇ?カランさまぁ?そんなに慌ててどうしたのぉ?」


 ラミスは何くわぬ顔で民家から出てくると玄関の扉に鍵を掛けた。

 ………鍵?


「えへへぇ、この鞄可愛いでしょぉー、ピンク色の鞄なんて人間しか作らないもんねぇ」


「ん?いや…え?」


 民家の表札にはデカデカと「ラミス」の文字。

 ん?…こいつもしかして?


「本当は服も欲しかったのぉ、でも…家借りちゃったらお金が心許なくなっちゃってぇ」


「お前魔王城じゃなくてこっちに住んでるのかよ!!」


「あー、カラン様声大きぃー、バレるよぉー」


「くっ!この……はぁ、それで週7か、こっちに帰ってるならそりゃ週7だわなぁ!」


「…えへへ」


 ダメだ、本当にこいつもうダメだ。ミッツウとか半ば放心状態だわ。流石にミッツウの心中お察しするわ。



「とりあえずご飯にしよぉ?お気に入りの所あるのぉ」


 そう言いながら得意気に歩き始めるラミスを見てもう諦めるしか無いと気付きソっとミッツウの肩に手を置いてやった。

 次からは弟子はちゃんと選べよ。



ほんと、私にしては実に平和な物語です(笑)

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