第-1話 魔王の必勝法
今年もあと僅かで終了ですね。
今年最後の投稿です、来年もよろしくお願いします!
「魔王さまぁ、魔王カランさまぁ」
少し気の抜けた声で我の元に駆け付けたのは若い魔女のラミス、…いや、駆け付けて無いな、のんびり歩いてるな。我は一応魔王だぞ?報告あるなら早く来いよ。
「ラミスか。どうした?」
「なんだっけ?」
「おい!相変わらず緩い奴だなお前は」
「ふわふわしてるって言って欲しいの。…あ、思い出しましたぁ」
ゆるゆるだろうとふわふわだろうとどっちにしろ頭の中お花畑じゃねぇか。
まったく、中身も外見も幼い奴だ、んー…外見は幼いというより発育が悪いと言った方が正確かもしれないな、まぁ…色々とな。
「我は魔王だからな?もうちょい緊張しろ、な?…で、報告は何だったのだ?お前の事だ、どうせ大した内容じゃないんだろ?」
「えへへー、そうかもー。勇者見つけたよぉ、まだ旅立ち前だったぁ」
「ほー、勇者をねー、はぁーん………はぁ!?それは大事だろうが!しかも旅立ち前か、まだ弱いって事だな!でかした!」
「あははー、わーい、ほめられたぁ、ふふふー」
「お前の占いの力も大した物だな」
「占って無いよぉ?えーとね、マーリハディっていう人間の町でね、勇者饅頭っていうの売ってたの、勇者プロマイドも売ってたから買ってきましたよぉ」
「町興し!?何、そいつら勇者隠さずに町興しのネタにしてんの!?人間てバカなの!?その町そんなに経営苦しいの!?」
「そーかもー、特産品も無いし特に観るとこも無くてつまらなかったですよぉ、大浴場も魔王城の方が広いくらいでぇ」
「観光!?お前観光して来たの!?遊んでたら勇者見つけたの!?」
「足で調査してたって言って欲しいの。見た目が人間な私の特権なのですよぉ」
「ま、まぁ良い。大手柄なのには変わりない。お前の師匠の魔導師ミッツウが勇者の誕生を予言してから15年の間何の進展も無かったからな、良くやった。…そういえばミッツウは参謀だったな。良し、ラミスよ。魔王城の魔物達を集めるようミッツウに伝えてくれ!」
「はぁい……あれぇ?魔王城の?各地で拠点を守ってる四天王の皆様は良いんですぅ?」
「良いのだ!むしろ呼ぶな!伝えるな!特に狩猟姫には絶対に知られるな!」
「えぇぇ…狩猟姫って…ユーキ様ですぅ?知らせなかったら一番怒りそうですけどぉ」
「う……いや!良いのだ!」
「私がユーキ様に殺されたりしませんかぁ?」
「その時は我が狩猟姫を迎え討つから安心しろ」
「魔王様より強いのにですかぁ?」
「……やはりミッツウの伝令ミスって事にしよう」
「あ…あはは…」
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「諸君!今日集まってもらったのは他でも無い!」
魔王城の広大なエントランスホールを埋め尽くす魔物達が皆一斉に我の方へ視線を向ける。その眼差しは尊敬と畏怖に溢れていた。
「ついに勇者の居場所を突き止めた!しかも勇者はまだ旅立っていない!ここに居る誰もが勇者に打ち勝てるだろう!」
エントランスホールは魔物達の勝鬨の雄叫びでビリビリと振動した。ふふふふ、実に血気盛んな奴らよ。
「魔王様!さっそく軍を率いて制圧しましょう!」
「そうだそうだ!人間共の希望を打ち砕いてやろうぜ!」
「ヒャッハー!血が滾るぜぇー!!」
しかし…浅はか…知性の低い魔物とはこうまで浅はかなものなのか。
「ならん!進軍は許可しない!」
我の言葉に困惑する魔物達のなんと愚かな事よ。これは一から教育する必要がありそうだ。勇者という存在についてな!
「勇者の町を襲撃したらどうなる?はい、そこのミノタウロス、答えてみよ」
「ゴフゥ!弱き勇者は息絶え、町は燃え、人間共に深き絶望を…」
「はい0点、お前は何も分かってない」
「ゴ、ゴフゥ!?」
「正解はこうだ。町は滅びるが何故か勇者だけは生き残り、魔王に対しての怒りを募らせ、何故かめっちゃパワーアップして我を殺す」
「ゴ…フゥ?…そんなバカな」
「女神の加護とはそういう力なのだ!勇者とは魔王を殺す為の性能と運を持ち合わせて産まれてくるのだ!」
騒然とするホール内で一人、手を上げた者が居た。それは大きなローブを身に纏った人型の魔物、人型というか外見的特徴は人間と変わらない。
「カラン様、それでは戦う前から我々の敗北は決まっているという事になりませんか?」
「その通りだ、流石は参謀よ魔導師ミッツウ。歴代最強の魔王クラーボンは歴代最強の勇者アスベルによって打ち倒された。それこそが答えだ」
「…では、カラン様はどうするおつもりで?よもや白旗を上げるつもりではありますまいな?」
「無論だ、我には必勝法がある」
我の強気な発言に再び雄叫びが上がる、ふふふふ、単純な奴らよのう。
「勇者の住む町の隣りに魔王城を建てるのだ!」
「おお、町を囲い奴隷として管理するのですね?」
「ミッツウよ…お前もその程度か。魔物によって人間を不当に貶めたら勇者の力が覚醒してチート化して我をボコボコにするに決まっておるだろうが!」
「え…えぇー…いやいや…えぇー…」
「歴代最強の魔王でも勇者には勝てないのだ、歴代最弱…んん!歴代の中でもやや弱い部類の私が勝てる訳が無いだろうが!常識的に考えろこの戯け!」
「いやいや、それでもカラン様の強さは魔王に相応しいもので有りそこまで悲観されなくても…、んん…ではカラン様の言う必勝法とは?」
「勇者を町の中で平和に監視し寿命で幸せに死んでもらう!我の方が寿命が長いからな、完全勝利だ!はーっはっはっはぁ!!」
「え…えぇ…」
ミッツウはなんとも微妙な顔をしてるが…まぁ元々微妙な顔だし放っておくとしよう。
「そうだ、ラミスよ。勇者のプロマイド持っておったな?顔を確認しておきたい、見せよ。皆にも見せて確認させておけ。勇者に危害を加える事があってはいけないからな」
「はいはぁい、この娘だよぉ」
魔女ラミスが持っていたプロマイドに映っていたのは一人の女の子、なるほど、勇者は女であったか。…どれどれ。
「…あ、可愛い」
……… …… …
この時の我はまだ知らなかった…歴代最弱の魔王に対抗する勇者の力を。
マーリハディ→ハディマーリ→はじまーり→始まり
さておき、これが魔王の必勝法です!
勝ったな…()