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最終話 リアルとネットの歪な融合 どちらが本物か

最終話です。よろしくお願いします!

 

 午前6時にけたたましい音で目覚まし時計が鳴り響く。ユウタロウにしてはやけに早い朝である。


「ねむいなう」


 過剰な眠気に襲われようとも忘れない起きたてほやほやのトゥイートを済ませた後、急いで身支度に走る。


 今日はユウタロウがトゥイッターに引けを取らないレベルにやりこんでいるソーシャルゲーム《パズルでボカン》のリアルイベントの日である。通称パズボカと言われるそのゲームは、この日5周年を迎えることになり、都心の大きなドームを借りて盛大なイベントを開催する。普段外に出ないユウタロウもこの日だけは都心へと足を運ぶのだ。


 トゥイッターに気を取られ、少し予定時間よりも遅れることになったが、誰かと一緒になることも無いので対した支障は無い。長い付き合いであるフッキーを誘ってみたが、彼は地方住みで金欠を理由に欠席。ゆきりんには一緒に行くことをネタを交えて匂わせるだけであり、ちゃんと誘うことはしなかった。


 電車で1時間半、会場に着く。ユウタロウの愛したパズボカで埋め尽くされた空間に彼は無意識にも目を輝かせる。すぐさま写真を撮りトゥイッターにアップしまくる。珍しく純粋に楽しんでいる様子だ。


 新情報発表ブースでの発表を終え、盛り上がるユウタロウ。その悦に浸り疲れたからか1人、テーブルに腰を掛ける。遅い昼飯の牛丼を頬張りながら張り付くようにトゥイッターを眺めていると、一つのトゥイートが目に飛び込んだ。


「パズボカフェスティバルなう!」


 この文字と共に張り出された会場の写真。その投稿主はあのユウタロウが敵視して止まぬ人物、ソーゴであった。


 あの日以来、一切言葉を交わすことのなかった2人であったが何故かお互いブロックとまでは行かずにズルズルと相互フォロワーという関係を保ち続けていた。はよブロれや


 ソーゴが来ている…。恐らく取り巻きを引き連れてだろうが、あいつらの事だ、見苦しい見た目でブヒブヒ喚いてるカスの掃き溜めのような連中に違いない。ゾロゾロ群れやがって。心の中でソーゴを貶し食べ終わった牛丼を片付けに席を立った瞬間に、ある男性2人組とぶつかった。180cm近くある男に簡単に押し負けたユウタロウ。呆気なくその場に倒れ込む。


「うっ…!」


「うおっ!やっべ!…すみません気付きませんでした!大丈夫ですか?」


「宗吾ォ、周り見えて無さすぎww」


「まじですんません!怪我とかありませんか?」


「だっ、だ、大丈夫…です…。」


 突然の人との接触によりいつも小さい声が更に小さくなるユウタロウ。しかし、彼が本当に動揺したのは突然の接触によるショックでは無く他にあった。


「あの声…まさか…!」


 宗吾と名乗るユウタロウとぶつかった男、ではなく彼を横から叱ってみせたもう1人の声に、ユウタロウは馴染みを覚えていた。


「嘘だろ…?来ないって言ってたはずだ!」


 フッキーとは何度か通話も行っていた。人見知りのユウタロウも、彼との通話ではそれなりに話は弾んでいた。最近はあまり行ってはいなかったが、ユウタロウの耳は彼の声をしっかりと記憶していた。


「宗吾ってことは…もしかしてあのぶつかった男はソーゴの事か?フッキーの野郎…俺に嘘ついてソーゴとここに来たってことなのか!?」


 突然の友の裏切り、流石のユウタロウもショックを隠しきれずその場で佇むも、それ以上に奴らが本当にフッキーとソーゴなのか確かめる必要があると判断したユウタロウは彼らが進んだ道をよろめきながら追いかける。


「嘘だろ!?もし俺の予測が正しければ、まるでフッキーがあいつのスパイみてェじゃねェか!」


 パニックになった頭で走り出すユウタロウ、当然ながらまたなにかに躓き、大胆に倒れ伏す。顔を上げるとそこには大量の人間が行き交う人混み、完全に2人組を見失ってしまった。


「やっぱりトゥイッターで聞き出すしか…」


 そう思い徐ろにスマートフォンを取り出そうとすると、目の前にそっとハンカチが差し出された。


「あの…大丈夫ですか?血ぃ、出てますよ?」


 大学生だろうか、肩まで伸びた毛先の方に緩やかなカールのある茶色がかった髪の毛の女性が目の前に立っていた。滅多に女性に話しかけられることの無いユウタロウは、瞬時に挙動不審な態度を取る。


「あっ…ぇ…だっいじゃう…ぶ…」


 そうして顔を上げ、彼女と再び目を合わせると、ユウタロウはまた驚くように目を丸くする。この髪型には見覚えがあった。


 ユウタロウが知っている女性と言えば1人しかおるまい、ゆきりんである。トゥイッターでのみ交流を続けていたゆきりんが今目の前にいるのだ。


「本当ですか?なら良かった…!あっ!ハンカチは差し上げますね!血が止まるまでに時間がかかりそうですし!」


「うぃ!?あっひっ…あり…がとぅ…。」


「あっ!ちなみに私ちょっと友達と待ち合わせしていたんですけど道に迷っちゃって…パズボカイラストブースの入口ってどこか分かります?」


「ひ、ひだりぃ…です。」


「左か!ありがとうございます!」


「あっっっ!!…」


「どうかしましたか?」


「…お、おきをつけて」


「?ありがとうございます…?」


 ゆきりん…!俺だ!ユウタロウだ!とトゥイッターの画面を見せようと思ったユウタロウ。残念ながら後一歩、勇気が足らずにその言葉を飲み込んでしまった。でも確かに、ユウタロウが心で思い描いていた彼女の人物像が、そこにはあった。優しくて、少しおっちょこちょいで愛嬌のあるゆきりん…。渡されたハンカチを見つめ、ユウタロウは呟いた。


「畜生…!」


 初めて気付いた本当の気持ち。今まで他人を見下すことで、自尊心を保ち続けていたが初めて自分の無力さを痛感し、そして気付いた。もしここで、彼女を諦めてしまったら二度とゆきりんとこうして会話出来ないかもしれない。せめて、せめて!自分の正体だけでも明かしたい!ゆきりんは左のパズボカイラストブースに向かっている。プロフィール画像を見せればきっといつもみたいに会話ができると信じたユウタロウは彼女の後を追う。


 イラストブースに辿り着く。茶色の先がカールがかった髪の毛を目印に目を懲らすユウタロウ。発見するや否や、彼は絶望を覚えることになった。


 ゆきりんと思われる人物が手を振る先には、ソーゴ、フッキーと思われる2人を含む3人組がいたのである。


 蒼白になった脳内で思考を巡らせる。冷静さを失ったその答えはユウタロウを暴走させた。


「フッキーだけでなくゆきりんまでソーゴのスパイだったのか!?全て俺をハメる為の策略だったのでは?この3人に俺は踊らされていたってことなのか!?ソーゴ…ソーゴが憎い!あの野郎…全部あの野郎のせいなんだ!!ソーゴ…ソーゴソーゴそーご!!!!」


「う、うぎゃあああえああああああああぎゃああああ!!!!!!!!」


 猿のような雄叫びをあげて、ユウタロウはソーゴと思われる人物に突進していく。


「な、なんだ!?」


「誰だお前!?宗吾!避けろ!」


「おぉぉレのゆきりんををおぉぉおお!!よくもぉぉおおおお!!!!!!」


 気が付くとそこはドーム内の会議室のような場所だった。あまりにも興奮してしまったせいか、突進している最中に気を失ってしまいその場に倒れ伏してしまっていたのだ。同時に先程の出来事を思い出しまたしても絶望する。震える手でトゥイッターを開き、ソーゴ、フッキー、ゆきりんの3名をブロックした。自分をここまで玩具にしてくれた3人への唯一の報いはこれしか無かったのである。ボロボロになった心を抱えて、1人ドームを後にした。


  *


「なんだったんだ今の奴??てか、さっきお前とぶつかった人じゃね?」


「なんかまずいことしちまったのかな?てか大丈夫っすか!そこの女の子!倒れ込んじゃってますけど」


「私は大丈夫ですよ笑でもびっくりしました急に笑じゃあ、友達がそこで待っているので!」


「お気を付けて!.......ところでさっきの奇人、なんか叫んでたよな?」


「ゆきりんがどうとか言ってたような?」


「ゆきりん?誰ですかそりゃ」


「さあw俺たち3人以外知り合いとか居ねえしなwおかしな奴も居たもんだな!気を取り直して行こうぜ!」

  *


 後日、ユウタロウはトゥイッター引退を宣言した。ゆきりんとフッキーという2人の大切なフォロワーを失った彼に居場所は完全に無くなっていた。SNSに張り付き続けていた彼の突然奪われた環境。果たして彼は、現実を受け入れ前に進むことが出来るだろうか…?


  *


 朝10時、ユウタロウの朝は遅い。通っている大学も今日は三限から。起きてまず初めにやる事は常に決まっていた。眠い目を擦り、トゥイッターを開く。


「ぽきたなう」


 誰も見ることの無い彼の呟きは今日も、電脳空間の海に消えていく。

御愛読ありがとうございました!

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