鍵のかかった裏の顔。向こう側にいるのは果たして......?
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俺はこいつらとは違うという思考から1人のフォロワー、ソーゴと緊張状態になったユウタロウ、握りしめたスマートフォンからは果たしてどのようなトゥイートを産むのか…?
怒りで震える右手から打ち込んだトゥイート、それは「なんか言われてて草」という怒りの感情とは到底見合わない短文であった。こんな短い文章で、今のユウタロウの感情が言い表せるはずも無い。
そこで彼はアカウント一覧ボタンから、1つの非公開アカウントの欄をタップする。そう、鍵のかかったユウタロウのもうひとつの顔、裏アカウントを起動した。
ユウタロウの裏アカウントには4人のフォロワーが存在した。この4人はユウタロウがそこそこの信頼を置いている比較的仲の良いフォロワー達だと彼は認識していた。
まずはフッキーという人物。彼とはパズボカのマルチでよく手を組んで戦う仲だ。続いてマズレモン、彼はユウタロウとあまりフォロワーが被っていないが、何故か仲良くなった。次にへんみ君。年下でアニオタなので若干見下してはいるが、やけにユウタロウに懐いていると彼が認識している為、裏アカウントのキーを渡された人物だ。最後に冒頭付近で登場したゆきりん。こいつはなんだかんだユウタロウと1番絡みがある女性フォロワーだ。彼女が女性であるからかは知らないが、ユウタロウは彼女との会話の時だけ若干文体が変わる。ユウタロウは「こいつと仲良くし過ぎるとこいつの事が好きなのか?って思われるかもしれない」と思っているらしいが、ガッツリこのゆきりんだけは上記の3人よりも明らかに特別な存在になっていた。まあ、ユウタロウはこの事実を認めていない訳だが…。
ソーゴへの不満はこの鍵アカウントでぶちまけていた。
「やっぱりドルコネ擁護派は気持ち悪いな。俺が何言おうが勝手だろ」
「ソーゴほんと気持ち悪いな。俺別になんも間違ったこと言ってねえし()あいつの取り巻きもまじで気持ち悪いんだよな。」
「そもそもトゥイッターって独り言を呟くアプリだろ。その独り言に一々噛み付いて来てんじゃねえよ」
怒涛の裏垢トゥイートマシンガンである。真っ黒な裏アカウントのアイコンが、余計に彼のドス黒い心の内を表すように…。
「確かにソーゴも言い過ぎた感あるわ。あくまでお前の感想だもんな」
最初にこのトゥイートマシンガンに反応したのはフッキーだった。しかし、彼はソーゴやその取り巻きともそこそこ仲がいいので、彼の裏アカウントを用いて裏ユウタロウをそっと擁護する。
トゥイッターを初めて1番長い付き合いなのが彼、フッキーである。ユウタロウはそれを自覚しているので、彼が自身の味方に回るのは必然と考えていた。
「大好きなドルコネ(笑)を否定されてぶちギレたんだろうなwまじで草」
フッキーが登場したことによってか、ユウタロウの悪口のボキャブラリーは増した。
「何かあったん?」
次に反応したのはマズレモン。彼はソーゴが中心の界隈とあまり接点がない。何も知らない立場としての、純粋な好奇心からの問いを投げかける。
「なんか俺のトゥイートが気に入らなかったのか知らないけどソーゴとかいう萌豚が噛み付いてきてくっそイラついてる」
断片的なトゥイート、あたかも理不尽にソーゴがユウタロウに噛み付いてきましたみたいな説明の仕方は幸か不幸か、あまり情報を得られない環境にいるマズレモンはそれを鵜呑みにした。
「あ〜あの辺の界隈ちょっと見たことあるけどいい印象ないね。身内ノリがキツいっていうか…。」
マズレモンのソーゴらに対する印象は良いものではなかった。それはユウタロウが裏アカウントで発する悪口からでしか、ソーゴ達の情報を得ることが出来ないからである。
そう、ユウタロウがソーゴを裏垢で批判するのはこれが初めてではない。これまでで何度かソーゴやその取り巻きを萌豚と揶揄してみせたり、臭い身内ノリの集団と表現したり、酷い時は彼のトゥイートをスクリーンショットに納め、裏アカウントで「きっも」という単語を添えて晒し上げる。ユウタロウのソーゴに対する何かドス黒い感情は普通ではなかった。
フッキーとマズレモンの擁護を受け、真に正しいのはやはり自分であるという事を確信したユウタロウの気分は、先程の怒りを吹き飛ばしたかのように晴れやかなものになった。それと同時に講義の終わりのチャイムがなった。と言っても一言も聞いていなかったが。
次の授業の教室に向かう道中も、彼はスマホを目から離さない。高揚感からか、自分はソーゴの攻撃を一言で跳ね返したんだという思い込みに浸り、どれどれその敗北者ソーゴ君のその後の負け惜しみを見てやろうと、彼のアカウント欄をタップし、彼のトゥイートを監視しながら移動した。
結果、ソーゴ本人はあのトゥイート以来は何事も無かったかのように普通の呟きが続いていた。なんだおもしろくないなとユウタロウはため息混じりに自分のアカウント欄に戻り、今度は取り巻きの監視に行こうとしたところ、異変に気付いた。132人いたユウタロウのフォロワーが129人に減っている。そして同時に彼の「フォロー欄」も3人分減っているのだ。
フォロワーだけが減るならよくあることである。大体フォローバックしていなかったアカウントに外されたり、フォローされてからまもなく凍結する怪しい企業やエロアカウントが減ってゆくものの正体だからである。しかしフォロー欄が減るというのは自分から外すか、相手が自分をブロックした場合に限ってくる。無論、ユウタロウは3人もフォローを解除した覚えはない。よっていきなり3人にもブロックされたという事実に気付いた。
ブロックしたものの正体はやはり、ソーゴの取り巻き3人であった。揃って3人のこともユウタロウは見下していたため、先に絶縁宣言をされたという事実に酷く激昂した。そして彼らのプロフィール画面に行き、「このアカウントにブロックされています」とだけ表示された画面をスクリーンショットに納め、晒しあげてやろうと思い立ったその時、講義開始のチャイムが鳴った。
「そこの黒い格好した君、君だよ一番後ろの…スマホをしまいなさい。」
次に受ける講義は先程の講義よりも面倒なもので、ユウタロウの堕落によって落とした幾つかの必修科目の再履修項目であった。必修科目なもので、普通の講義とは違い規制が厳しい。スマートフォンは電源を切ってバッグの中だ。ユウタロウが如何に今、この取り巻き達を晒しあげてやろうと拳を振り上げている寸前であろうとも、この講義のルールには従わなくてはならない。ユウタロウは泣く泣くスマートフォンの電源を切り、バッグに仕舞った。
「くそっ早く終われよ…」イライラ…ガタガタ…
90分ある講義が、この時だけはやけに長く感じた。




