150話 弱点の晒し方
魔王が再び攻撃の体制に入ります。
しかし、今度は魔法の詠唱をしているようで、すぐに攻撃される訳ではないようです。
呪文を詠唱する魔王の周りには、無数の先の尖った針のような石が浮いていて、その尖った先端全てが私の方へ向いています。
私は咄嗟に湖を背にする位置に移動し、流れ弾が観客の皆さんに向かって飛んで行くのを防ぎます。
「逃げても無駄だ、蜂の巣にしてくれる!」
別に逃げている訳ではないのですが、逃げたと思われるのは癪ですね。
「くらえ!!」
魔王は数百は有ろうかという針を高速で回転させながら私に向けて飛ばしてきました、しかし見た目の割にたいしたスピードはなく、さらに追尾性も無いようで私が2~3歩横に避けただけで針は湖の中へポチャポチャと消えていきました。
「クソ避けられたか、舐めてシールドを張れば簡単に貫通できたのに…。」
よく分かりませんが、あの攻撃は避けるのが正解だったようです。
逃げても無駄だと言ったのは避けられないようにするための挑発だったのでしょうか?
それでシールドを張らせて高速回転した石の針で貫通させるつもりだったのでしょう。
あぶないあぶない。
さて、魔王の攻撃が終わったので今度はこっちの番です。私が使う魔法は十八番であるシールド魔法。お兄ちゃんはこの魔法の事を『きえんざん?』とか言っていましたが…。
私は、そのシールド魔法を無詠唱で円盤状にして魔王に向かって投げました。
そして、いつものようにシールドは放物線を描きながら明後日の方向へ飛んでいきました。
「どこへ投げてるんだか。よく分からん魔法だったが、当たらなければどうということはないな。」
しかし、シールドはブーメランの如くUターンし、魔王の背後に接近。
「なっ!」
惜しくも魔王は寸前でその存在に気付き、全力で回避したため致命傷には至らなかったものの、魔王の頭から生えたツノの1本を根元から切断することに成功しました。
そのままシールドは湖の中へ消え。
そして、地面に『ボトリ』と落ちた魔王のツノ。
「えっ…。」
魔王は突然の事に動揺を隠せないようで、切断された方…左側のツノが生えていた所を手で触って確認しています。
「………ない…。」
「ツノが…ない…。」
そりゃあ、あなたの足元に落ちてますからね…。
「…よくも…。よくもやってくれたな!もう絶対に許さないぞ!!」
「たかがツノ1本でずいぶん大袈裟ですね。」
「たかがツノだと!魔族のツノは折れたら2度と生えて来ないんだぞ!」
魔族のツノは鹿みたいに、毎年生え変わる訳じゃないんですね、また1つ賢くなりました。
「それに魔法の威力にも直結してツノが1本無くなると威力が半分になるんだぞ、そして2本とも無くなったら…。」
「無くなったら?」
「…魔法が使えなくなる。」
…この魔王って馬鹿なんでしょうか?わざわざ自分の弱点を自分から言うなんて…。
「…つまり、ツノを2本とも切断すれば私の勝ちは揺るがないと言う事ですね?」
私は、先程と同じシールドを今度は5枚、私の頭上に浮かべています。
「えっ?」
そして、問答無用でシールドを飛ばしました。
「えっ、ちょっ!!」
シールドは1枚が直接魔王の頭上にある残った右側のツノ目掛けて飛んで行き、残りの4枚は、それぞれが明後日の方向に飛んで行きました。
魔王は1枚目のシールドをどうにか回避し…。
「うわあぁぁぁぁ!!!」
そのまま魔王は逃げ出しました。
シールドは2枚目3枚目4枚目と次々と背後から魔王に襲いかかりますが、あらかじめ来ると分かっている攻撃であった為か、最後は転びながらも5枚全てを避けられてしまいました。
しかし、ここで攻めの手を緩める私ではありません。
私は、起き上がろうと地面に手を着いた魔王の手をおもいっきり踏んづけます。
『バキバキ』っと鈍い音がして、変な方向に折れ曲がった指。
しかし、ここでまさかの魔王の反撃に遭います。
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
っと、魔王に至近距離で叫び声をあげられ、慌てて耳を塞ぎましたが間に合わず、痛恨のダメージを受けてしまいました。
私のワンピースは衝撃には強いですが、音には弱いようです。これは後で改良する必要がありそうです。
魔王は反対の手で私の足首を掴み、私の足を退かそうとしますが…。
『グリグリ』
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
踏まれた手をグリグリされ再び叫び声をあげる魔王。
今度は予め耳を塞いでいたので私にダメージはありません。
『グリグリ』
「うあぁぁぁぁ!!!も、もう許し…」
魔王は泣きながら許しを得ようとしていますが、私は聞く耳を持ちません。
『グリグリ』
「ぬあぁぁぁぁ………。」
もう叫び声を上げる元気もないようですね。
これはチャンスなので、私は魔王にトドメを刺す為、シールド魔法で残ったツノを切断する事にしました。
しかし、それと同時に湖の中からアレが現れました。
ケーキの恨みは恐ろしい…。