147話 根性の見せ方
「なんだか先程から外が騒がしいですわね?」
「……ソデスネ。」
宿に戻った私達が、部屋でくつろいでいると、外が騒がしくなっている原因を知っているはずのリッカちゃんが、そんな事を言い出しました。
因みに、リッカちゃんがくつろいでいるのは、お兄ちゃんのお膝の上です。ずるいです!
それと、一応、念のため言っておきますが、絶対にドラゴンさんが魔王?の城で一悶着している事が外が騒がしい原因だと思います。
「それにしても、先程から小さな地震が多いですわね、火山の近くだからでしょうか?」
ここは温泉のある宿なので、火山が近いのは間違いないのでしょうが、この揺れはドラゴンさんが暴れているせいだと思います。まぁ、本当に火山性地震である可能性も、ない訳ではありませんが…。
「あっ、そうですわ!」
「どうかしたんですか?」
「いえ、さすがに少し宿に戻るのが速くて時間が余っているので、ここの厨房を借りて、さっき捕ったお魚を捌いてしまおうと思っただけですわ。」
「にゃぁ!?」
お魚と聞いた途端に、すかさずフードの中にいるリボンちゃんが反応しました。どこまで食い意地が張ってるんでしょうか…。
「それに、いい事も思い付きましたし。」
「いい事? ですか?」
宿の厨房にやって来た私達は、早速お魚を捌きにかかります。
勿論、私はお魚なんて捌けないので捌くのはリッカちゃんと、厨房で暇そうにしていた見習いっぽい料理人さん2人で、私とお兄ちゃんはアイテムボックスからお魚を出し入れするだけです。
それにしても、リッカちゃんが思い付いたいい事って、ここの料理人さん達を巻き込んでお手伝いをさせる事だったんですね。
最初は料理人さん達に迷惑なんじゃ?と思いましたが、料理人さん達は、「いい暇潰しが出
来る」と喜んでやってくれています。
それに、お礼としてお魚を少し渡すと言った事もあるのかもしれません。
しかし、こうなると黙ってないのが、リボンちゃん…ではなく、このデブ猫です。私達が厨房でお魚を出すと同時に何処からともなくやって来て、お魚に飛びかかろうとしました。
その時の猫さんは、今までの鈍い…いえ、どっしりとした動きが嘘のように機敏で、猛スピードで厨房まで走って来て、そのまま大ジャンプを決めて、お魚に飛びかかってましたからね…。
まぁ、その猫さんが厨房に来るのはいつもの事らしく、料理人さん達の手によって難なく止められてしまいましたけどね。
そして、そのデブ猫を今は私が抱いています。
重いです、ものすごく重いです、しかも暴れていて放したと同時にお魚に飛びかかりそうです。
「早く終わらせて下さい!そろそろ限界です!」
「猫と遊んでいるだけなのに、いったい何を言ってるんですの?それに、まだ始まったばかりですわよ?」
「遊んでる訳じゃないですよ!猫さん捕まえてるの、かなり大変なんですよ!」
「そんなの知りませんわ、あと2時間くらいで終わりますから、それまで頑張って下さい。」
「あと2時間も!とてもじゃないけど、そんなにもちません!」
「そこは根性ですわ!」
いや、根性とか言われても…。
そして、それから3分程はどうにか根性で猫さんを捕まえていたのですが、ついに猫さんは私の腕をすり抜け猛スピードで厨房の方へ…行こうとしたのですが、何か透明な壁のような物にぶつかって猫さんの進行が止まりました。
よく見ると、それはシールド魔法で私の周りをぐるりとドーム状に囲ってありました。
勿論、このシールドを張ったのはお兄ちゃんです。
こんなシールドを張っているなら早く教えて欲しかったです…。
これで、私は猫さんを捕まえていなくても良くなりましたが…。
これでは私も出られないです…。
猫さんはまだ諦められないのようで、シールドを爪で引っ掻いたり、体当たりしたりと突破を試みていますが、お兄ちゃんのシールドはびくともしません。
しかし、数分で突破は不可能と猫さんも判断したのか、それともただ単に疲れたのか、はたまた油断させてシールドを解除させようとしたのかは分かりませんが、何故か私の膝の上で居眠りを始めました。
あの…重たいんですけど…。
…でも、寝顔はかわいい。
そして、猫さんとシールドとの2連コンボによって、私は完全に身動きが取れなくなってしまいました。