136話 お臍の取り方
その夜…。
『ゴロー、ピカー、ドーン』
「「ひぃぃぃ」」
私は雷が怖いふりをして、ペンギンさんに抱きついています。
『ドカーン!!』
「「ぎゃぁぁぁー!!」」
訂正します、本当に雷が怖くてペンギンさんに抱きついています。
うさぎさんも、最初はわざとらしく、お兄ちゃん抱きついていましたが、今は涙目になって必死にペンギンさんにしがみついています。
それにしても、今回の雷様は、かなりご機嫌斜めじゃないですか!?これでは、私のお臍は、いつ取られてもおかしくないです!!
すると突然、『コンコン』っと部屋のドアがノックされました。
こんな時間に誰でしょう…って1人しかいませんが…。
「あれ?雷様がアリスのお臍を取りに来たのかな?」
「えっ!!」
それを聞いて、私は咄嗟にお臍を隠しながら頭から布団を被り隠れます。
「開いてますよー」
ちょっと!お兄ちゃん!なんで普通に迎え入れてるんですか!?
すると、「ガチャリ」と、ドアの開く音がして、だんだんと足音が近づいて来るのが分かりました。
私は息を殺し、雷様が出ていってくれるのを待ちます。
「どうかしましたか?」
お兄ちゃんが話しかけますが雷様の返事がありません。言葉が通じないんでしょうか?
「あの…。大変申し上げ難いんですけど…。」
あれ?この声は…キャルさん?
私は布団を少しだけ捲り、隙間から声の主を確認するため覗きこみます。
すると、そこには茶色い毛むくじゃら…じゃなくて、犬のパジャマを着た涙目のキャルさんが立っていました。しかも、なぜか腕にリボンちゃんを抱いています。
「はい、なんでしょう?」
「あの、その、えっと…怖いので一緒に居てもいいですか?」
キャルさんは消え入りそうな声で、お兄ちゃんにお願いしてきました。
「えっと…まぁ、いいですけど…。」
「隣は譲りませんわよ!」
そして、リッカちゃんのその言葉に、いち早く反応した私も布団から這い出てお兄ちゃんに抱きつき。
「私も隣は譲りません!」
「えっ、あ、うん、大丈夫。誰かが居てくれれば…。」
ちなみに、寝室のベットはキングサイズで、私達はお兄ちゃんも含め、全員が比較的小柄なので余裕を持って4人と1匹…いえ。今は2羽と3匹ですかね?一緒に寝る事ができました。
しかし、程なく雷は遠ざかり。部屋に戻るタイミングを失ったキャルさんは、結局朝までこの部屋で過ごす事になりました。
そして、翌朝。
今日は、昨日の雨が嘘のように晴れ渡り、若干風が強いものの、一面に雲一つない青空が広がっていました。
今日の予定は、全員で昨日まで掘っていた埋蔵金の発掘後に木を植える作業をするようです。
ちなみに、私達はアイテムボックスから木を穴に立てるだけでよく、土を被せる作業は街の人が総出でやってくれるみたいです。
私達は全員で朝食を食べた後、外に出ると、そこには驚きの光景が広がっていました。
ここは小さな丘の上にある大きな岩影の裏なのですが、その岩影から向こう側を見下ろすと、なんと昨日まで皆で掘った、たくさんの穴は大きな水溜まりになっていました。
これでは木を植える事ができません。いえ、私は大丈夫ですよ?水溜まりの上から木を落っことすだけなので…。
ただ、街の人達が水溜まりの埋め立て作業をするのが大変なだけで…。
そして、そのまま街の方に目を向けると…。
………。
そこには水没した街がありました。
雷の音が凄くてよく分かりませんでしたが、雨もかなり凄かったんですね…。
「うそ…。こんなに雨が降っていたなんて…。」
「すいません…雨に加えて雷が鳴っていたので結界魔法をいつもより強くしたのが裏目に出ました…。」
と、お兄ちゃんは言いますが、仮に雨に気が付いていたとしても何も出来なかったと思います。
せいぜい、少し早く行動できたくらいで…。
「助けに行かなきゃ!!」
「待ちなさい!」
キャルさんが、そう言って走り出そうとした所をリッカちゃんが引き止めます。
「落ち着きなさい!今、あなたが行って何ができるのか。それをよく考えてから行動しなさい。」
珍しく、リッカちゃんが強い口調で話しています。
こういう時はやっぱりリッカちゃんは頼りになりますね!
そして、キャルさんが少し考えてから出した結論は…。
「…ここからじゃ何もできませんね…せめて家に…領主邸に行ければいいんですが…。」
なるほど…領主邸ですか。
領主邸はここから見る限り、街の中心にあり、そこだけ小高くなっていて浸水はしていないように見えます。
領主邸に何があるか分かりませんが、行くだけなら難しくないですね。お兄ちゃんにくっ付けば空を飛べますし…。
でも、それには問題もあります。
それは…キャルさんがお兄ちゃんにくっついちゃう事です!
それは許せないです!どうにか別の方法を考えないと!
今はコロナで騒いでるし、そろそろ水害ネタは時効だと信じてる。