第8話 パーティ決め
異世界に来てから2週間が過ぎた。
みんなスキルや魔法を習得して、着実に強くなってきている。訓練も素振りなどの基礎から、最近はペアを組んで模擬戦をするようになってきた。
魔物を倒していないからレベルは上がっていないけどステータスは少しずつ増えていた。筋トレなどの訓練をすれば少量だけどステータスは上がるようだ。でもやはり、レベルを上げなければ限界があるようだ。
基礎もできてきたということで1週間後から王都にあるダンジョンに行くことになった。
みんな魔物と戦えるってことでテンションが上がっているようだ。
かく言う僕も楽しみなんだよね。できればテイムがしたいな。
それにしても、元は争いがない国から来たのに魔物との戦闘が楽しみに感じるって、少しおかしいような感じがするんだよね。
もしかしたら、召喚されるときにこの世界に適応できるように精神を改変されたのかもしれない。
「さて、1週間後からダンジョンに行くことになっている。それまでにしっかりと鍛えるぞ。今回のダンジョンには、魔法師団の団長アリーシャと第2王女のフローラ様もついてくることになっている」
「おお、フローラ様も来るのか」
「フローラ様は王女様って感じで本当にかわいいよな」
「いや、本物の王女様だけどな。俺のかっこいいところ見せるぜ」
そんな感じで男子たちはフローラも来るということでそれぞれが意気込んでいる。
「今回行くダンジョンは、上層部の1階から10階までが初心者用となっている。それで今回は10階層まで攻略したら帰ってくることになる」
「それでは、宿を取って泊まりでいくということですか?」
一人の生徒が質問をした。
「そうなるな。ただ、宿の心配はするな。こちらが予約を入れておいてあるから」
王国がお金を支払ってくれるようだ。まぁ、僕たちはこの世界に来たばかりでお金を持っていないからね。
それに、王城から出ることが禁止されているから、冒険者登録ができないしお金を稼ぐこともできないんんだ。
「というわけで、今日は1週間後のダンジョン攻略でのパーティメンバーを決める。メンバーはお前たち自身で決めるんだ。ただし、前衛後衛のバランスがよくなるようにしろよ。また、人数は1パーティ4人以上8人以下とする。では決めろ」
アルフレッドさんがそういうとみんなパーティを組み始めた。
「さて、僕もパーティメンバーを探さないと。鈴華の那月は組んでくれるかな」
僕は2人を探して歩きまわっていたが、誰も僕をパーティに誘ってくれなかった。まぁ、訓練では散々だったからね。仕方ないんだけど、少し悲しいかな。
「悠璃、パーティ組むわよ」
「兄さん一緒に組みましょう」
「悠璃君、私もいいかしら」
そんなことを考えていると鈴華たちのほうから来てくれた。彼女たちは僕と組んでくれるようだ。
それに五十嵐さんもパーティを組んでくれるらしい。
「ありがとう3人とも。よろしくね」
僕たちは残りのメンバーをどうしようか話し合いしようとしたら「鈴華ちゃん、那月さん!」と2人を呼ぶ声が聞こえた。
声のしたほうを見てみると5人のメンバーを連れた光輝がこちらに歩いてきた。
「やぁ、鈴華ちゃんに那月さん。僕のパーティに入ってくれないかな?特に賢者である那月さんは、僕のパーティに入るべきだよ」
「すみませんが光輝先輩、私は兄さんたちとパーティを組むので辞退させていただきます」
「私も悠璃とパーティを組むからあなたとは組めないわ」
2人は僕とパーティを組むからと即断で断っている。
「そうか、分かったよ。今回はあきらめよう。でも、僕はいつでも歓迎するから気が変わったら来てくれ」
そう言って光輝のパーティは離れて行った。
「はぁ、争いにならなくてよかったよ。2人をかけて勝負しろなんて言われたら、さすがにヤバかったからね」
「兄さんなら何とかして勝ちそうなのですが」
「私もそう思うわ」
「2人は悠璃君のこと信頼しているんだね」
彼女たちと話しながら周りを確認してみると、ほとんどパーティができているようだ。
僕もメンバーはこの4人でいいかなと考えてアルフレッドさんに報告に行こうとしたら、一人気になる子がいた、
彼女は壁際に一人でおり、周りにはパーティメンバーらしき人はいない。
「ごめん、少し向こうに行ってくるよ」
3人にそう言って、僕は彼女のところに行った。
「君は確か同じクラスの愛川さんだよね。パーティは組まないの?」
僕は彼女にパーティを組んでいないのか聞いてみることにした。
「う、浦之くん!? ど、どうしてここに!?」
「アルフレッドさんにパーティメンバーの報告に行こうとしたら、愛川さんがここに一人でいたのが気になってね。パーティは組んでないの?」
僕がそう聞くと愛川さんは表情を暗くした。
「う、うん。組んでくれる人がいないから...」
うーん困ったなぁ。そういえば休憩中とかもずっと一人でいたね。昼になるといつも一人で教室を出て行ってたな。
「なら、僕のパーティに入る?」
僕は彼女をパーティに加えることにした。
鈴華たちなら問題ないと思う。
「え! でも、わたしドジだし、役に立たないかもしれないし...」
「そんなこと気にする必要ないよ。僕たちは全然気にしないからね。僕だって職業の関係でステータスが異常に低いし。それに僕は愛川さんが欲しいんだ」
僕が優しく微笑みかけながら言うと、愛川さんは俯いてうなずいてくれた。
「愛川さん、顔が赤いけど大丈夫?」
「は、はい!大丈夫です!」
僕は愛川さんを連れて鈴華たちのところに戻った。
「みんな、愛川さんをパーティに入れることになったけどいいかな?」
「私は問題ないわ」
「私もいいです」
「問題ないですね」
「み、皆さん、不束者ですがよろしくお願いします」
みんな問題ないようだ。
「じゃ、僕はアルフレッドさんに報告に行ってくるからここで待っててね」
僕はそう言ってアルフレッドさんのところに向かった。
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「はぁ~、さっきの悠璃見た?」
「えぇ、見てましたよ」
「さっきのセリフ凄かったね。”僕は愛川さんが欲しいんだ!”ですよ。普通にプロポーズしてましたね。しかも微笑みながら。というか自然に言えるとかすごいですね」
「はぅ!!」
愛川さんは顔を赤くして俯いてしまった。
「今の反応は確実に落ちてるわね」
「それはそうでしょ。フローラの話によるとエルフよりも美形の男に優しく微笑みながら君が欲しいなんて言われてんですよ。落ちないほうがおかしいでしょ」
「兄さんは天然の垂らしですから。本人は無意識みたいですけど。」
3人はため息をついた。
「それより、愛川さん。雪乃って呼んでいいかしら?私のことも那月でいいわ」
「私も雪乃って呼んでいい?私のことは颯でいいですよ」
「私は雪乃ちゃんと呼ぶ。だから、私のことも鈴華でいい」
「はい!那月さん、颯さん、鈴華ちゃんよろしくお願いします」
「それじゃ、悠璃が戻ってくるのを待ちましょう」
4人の自己紹介は終わり悠璃が戻ってくるまでお話をしていた。
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「アルフレッドさん、パーティメンバーが決まりました」
「おう、そうか。メンバーは誰だ?」
「僕がリーダーで那月、鈴華、五十嵐さん、愛川さんです」
「眷属使い、精霊魔導士、賢者、剣豪、舞姫か。えらくレアな職業ばかりが揃ったな。それにバランスとしては悪くない。ただ、回復職がいないから回復薬を多めに用意しておくんだ」
「わかりました」
アルフレッドさんにアドバイスをもらってみんなのところへ戻ることにした。
「それにしても、回復職か。回復系のスキルを持った魔物をテイムしたいな。多分僕のパーティに入ってくれる回復職の人なんていないだろうし、そもそも回復職は貴重だってフローラが言ってたからね。それなら、回復系のスキルを持った魔物を眷属にして僕も習得するほうがいいと思うんだよ」
僕は独り言をつぶやきながらみんなのところに戻った。
回復職についてはみんなで話し合ってどうするか決めることにした。
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「お待たせ。パーティとしてのバランスはいいらしいよ。ただ、回復職がいないから回復薬を多めに用意しておけってアドバイスをもらったよ」
「そうね、確かに近接攻撃、遠距離攻撃、補助はそろっているけど、回復がないわね」
「そうなんだ。だから、今度のダンジョン攻略で回復系のスキルを持った魔物をテイムして眷属にしようと思ってるんだ」
僕は、僕が今考えていることをみんなに話した。
ちなみに、叡智の教本であるソフィーには世界の理に接続して、スキルの習得条件などを閲覧することができる能力を持っているんだ。しかし、僕の能力が足りないせいで、使用することができない。だから、回復系のスキルの習得条件などを知ることができなかった。
とはいっても、ソフィー達には寿命が存在しないため長い時間を生きている。だから、結構いろんなことを知っているんだよね。
「そうですね。それが一番いいと思います」
「あのう、その眷属化って何ですか?」
「それ、私も気になってたわ」
相川さんと五十嵐さんが質問してきた。
そういえば、まだ説明してなかったね。
「それじゃ、今日の夕食の後に僕の部屋に来てもらえる?那月たちと一緒に来ればわかると思うから」
「わかったわ」
「よろしくお願いします」
「今日の訓練はここまでにする」
僕たちの話し合いが終わったころに丁度、アルフレッドさんの掛け声で今日の午前の訓練は終了した。
僕たちは、昼食を食堂に向かいそのあとはいつものように座学と魔法の訓練を行った。
次回の更新は明日になります。