第5話 初の護衛依頼3
翌日、僕たちは朝食を食べてからすぐに出発した。
「ここまでは、魔物や盗賊の襲撃なく順調だね」
「そうね、でも油断しちゃだめよ。もしかしたら今日襲われるかもしれないんだし」
昨日は一度も襲われることなく、野営場に到着することが出来た。
僕たちは周囲を警戒しながら歩いていると、エリーナさんが急に立ち止まり、耳をピコピコと動かしている。
僕は気になって小さくしていた気配さったいの範囲を最大まで広げてみると、こちらに向かって動いている複数の気配を感じた。
『マスター、この気配と動き方からしてモンスターではなく盗賊だと思います』
(そうなのか・・・)
とうとうこの時が来たようだ。僕は日本でもこの世界に来てからもゴブリンなどの人型の魔物以外1度も人を殺したことがない。しかし、この世界で生きていくには必ず経験しなければならないことだろう。相手は盗賊だ。これまでも沢山の人たちを殺してきたであろう存在だ。
この世界では、盗賊という存在は見つけたら場合は殺すというのが普通だ。もし殺さず生きたまた衛兵などに突き出したとしても、最終的には処刑されるか、犯罪奴隷として鉱山に送られて死ぬまで働かされることになる。だから、結局はその場で殺すか、別の場所で殺されるかの違いがあるだけだ。それに、盗賊を殺すことをためらってしまえば、逆に自分の仲間や大切な人たちが襲われたりすることになる。
浦之家の家訓にも”自ら進んで人を殺すことはしてはならん。しかし、家族や仲間を守るための殺害は躊躇うな”というものが存在する。日本では、いくら家族などの大切な人たちを守るためとはいっても、殺してしまえばその人が犯罪者となる。しかし、この世界では、盗賊や犯罪者の場合は殺しても犯罪となることは無い。
地球とこの世界で、同じ人が住んでいるのにルールが違うのは。魔物が存在するかしないか、スキルや魔法があるかないかというのが一番の理由だろう。
『マスター、もうすぐそこまで盗賊たちは来ています』
「うん、わかってるよ」
ダンジョンで人型の魔物を殺したときは、ほとんど何も感じなかった。
もし、ここで盗賊たちを殺したとしても、何も感じなかったらと思うと怖くなってしまう。そして、こんな人殺しが日本に帰れたとしても、普通に生活することが出来るのか?普通に生活してもいいのか?と考えてしまう。だけど、ここは異世界であって地球ではない。郷に入っては郷に従えという言葉があるように、その世界にはその世界のルールが存在する。そして、今の僕は異世界人ではあるが、暮らしているのは地球ではなく異世界だ。そして、これからも帰還方法が見つからない限りはずっとこの世界で暮らしていくことになるだろう。それに、盗賊相手に殺すことをためらってしまえば、エリーナさんたちが、鈴華たちが危険な目に合うことになるかもしれない。
(それだけは絶対に嫌だ!!)
だから僕は、地球に帰ってからのことは今は考えない。今はこの世界で生きていくことだけを考えいる。地球に帰ってからのことなんてその時になってから考えればいいのだから。ただ、考えることを先送りにしただけだと思われるかもしれない。でも、もう僕はそう決めたから。
「仲間を、家族を、大切な人たちを守るためなら僕はためらわない。そのせいで誰かが傷つくのは嫌だから。考えることは、あとでもできる。だから僕は・・・」
”今ここで覚悟を決める!!”
〔「強き覚悟」を確認しました。称号:確固たる意思と覚悟を持つ者を獲得しました〕
『さすがはマスターです』
『うむ、妾も惚れ直してしまったのじゃ』
『めっちゃかっこよかったでぇ』
「ありがとう、3人とも」
僕は3人に感謝の言葉を伝えると、もうすぐ盗賊たちと遭遇することを、エリーナさん達に伝えた。
「エリーナさん、あと少ししたら盗賊たちと遭遇します!!」
「本当!?分かったわ。教えてくれてありがとう。ガルアさん、どうやら盗賊がすぐ近くにいるみたいなので馬車をいったん止めてください」
「分かりました」
「ルティア、アルメダ、セリア、盗賊たちと遭遇するわ。戦闘準備をしてちょうだい」
「「了解!!」」
各自の準備が終わると同時に周りの木々の間から盗賊たちが出てきた。
「ガハハ、こんなところを馬車が通るとは俺たち運がいいな!!おい、お前ら、女と荷物を置いていきな」
そう言って出てきたのは、頭に赤いバンダナを巻いて大剣を背負っている筋肉ムキムキの男だった。
「へへ、お頭。あそこにいる女たちみんな美女ぞろいですぜ」
「エルフもいるじゃねえですか」
「ほう、エルフか。奴隷として売ったらすげぇ金になるな」
「あの金髪の女すげぇ、胸がでかいぜ」
「お頭、俺にあの女くださいよ」
「馬鹿野郎!!俺が最初に決まってるだろう」
「あそこに黒髪のすげぇ、美少女がいますぜ」
「おう、胸は全然ないがありゃ、相当だな」
盗賊たちは下品で鼻息荒く話している。
「なんか、僕まで女性扱いされてません?そもそも、胸がないのは男なんだから当然でしょ」
「「くふふっ」」
『黒髪の美少女ですってマスター』
『胸が全然ないのじゃ。クップププ』
『アハハ!!確かに普段の男性用の服を着ているならともかく、今の主は美少年にも美少女にも見えますからね』
エリーナさん達や神器3人組にまで笑われたんだけど。
「まぁいいよ。それよりも来ますよ」
僕はエリーナさんたちにそう声をかけると、腰からニーアとレヴィを引き抜き、ソフィーに気配察知のスキルの演算と制御を任せて、他のスキルを発動させた。
周りを見るとガルアさんは馬車の荷台の方に隠れており、エリーナさんたちもそれぞれ準備が出来たようだ。それと同時に盗賊たちが襲い掛かってきた。
「覚悟を決めたんだ。今の僕なら絶対に大丈夫」
僕はそう呟くと、戦闘に意識を集中した。




