第28話 ミリアへの事情説明
宿のドアを開けて中に入ると、フロントには誰もいなかった。まぁ、ここの宿は王国が貸し切り状態にしているから僕たち異世界人以外に客がいないのは当然なんだけど、その異世界人すら誰もいない。僕としては都合がいいんだけどね。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませ、こちらがお部屋のカギになります」
ここの宿は高いだけあってセキュリティーがしっかりしている。
宿を出るときはフロントで部屋のカギを預けなければならない。部屋の掃除や布団などを変えるのにカギがなければ部屋に入れないし、どうもここの宿は各部屋のカギを一つずつしかつくてないためスペアキーがないらしい。
「ありがとうございます。ところで質問なんですが、奴隷って泊まることはできますか?」
「奴隷は主人の持ち物ですので、同じ部屋であれば可能です」
「わかりました。料金はどうなりますか?」
「追加で1人分払っていただくことになりますので10万ルダで小金貨1枚になりますね」
ここの宿ってそんなに高かったのか。さすがは貴族御用達の高級宿だね。
「これでお願いします」
宝石などを売ったおかげでお金には余裕があるから問題ない。
「はい、確認しました」
「それでは失礼しますね」
僕はミリアを連れて部屋に向かった。
「あ、あのうご主人様、奴隷ごときがこんな高いところに泊ってもよろしいのでしょうか?」
「ミリアは気にすることないよ。それに、僕はミリアを奴隷として扱う気はないよ」
「え?」
この世界での奴隷の扱いは知らないけど僕は自分の好きなようにする。それにうちの家訓に女性には優しくすることっていうのがあるからね。僕自身も女性にはできるだけ優しくしたいと思っているし。
「そうだね、部屋の中でまずは僕のことについて話しておこうかな」
扉を開けようとしたら、ミリアが先に動いて扉を開けてくれた。
「ご主人様のお世話をするのは奴隷の役目です。雑用も奴隷の役目です」
「あ、ありがとう」
僕はミリアにお礼をいって部屋に入った。それからすぐに腰の剣2本と魔導書を外しベットの上に置いた。するとすぐにそれらは光だし人の姿になった。
「え?」
ミリアは目の前の普通ではありえない出来事に困惑しているようだ。
「これは人化というスキルだよ、これも含めて今から説明するね」
僕は部屋の扉がしっかりと閉まっていることを確認して、座らずに立っているミリアを隣に座るように言った。彼女は奴隷だからと頑なに断っていたが、まぁ、そこはご主人様の命令というと、ミリアは渋々だが座ってくれた。
「さて、一つずつ話していくよ。まず、ミリアはこの国が勇者召喚を行ったのは知っているよね」
「はい、私は奴隷商にいたので知らなかったのですがオリバー様が教えてくださいました」
「なるほどね。じゃあ、勇者召喚については知っているかい?」
「いえ」
ミリアは首を横に振った。
勇者召喚については知らないようだ。
「なら、勇者というのは知っているかい?」
「はい、この世界の人はみんな知っていると思いますよ。勇者様のお話は、勇者と4人の英雄という名前で英雄譚として本になっていますから」
「勇者と4人の英雄ねぇ、その4人の英雄って職業は何かわかる?」
「はい、4人の英雄様はそれぞれ賢者、聖女、剣聖、守護者の職業であったと本に書かれています」
賢者は攻撃系の魔法に特化、聖女はその逆で補助や回復系の魔法、剣聖は剣術による近接戦闘特化、守護者は守りに特化しているって感じかな。そしてリーダーが勇者で剣術、魔法の両方を扱える万能職。ただし、剣術は剣聖より、魔法は賢者と聖女のそれぞれに劣るって感じだと思うんだよね。まぁ、これにはいろいろな考えがあるんだけど今はいいかな。
「それじゃあ、勇者と4人の英雄の物語の内容を教えてもらっていいかい?」
「はい、大丈夫ですけどご主人様は読んだことないのですか?」
「それについてもちゃんと後で話すよ」
「わかりました。では、物語の内容ですね」
世界には魔王と呼ばれる存在がいた。魔王は魔物を従えて人類に侵略し世界を混沌に陥れた。人類は侵略してきた魔王を討伐するために、戦争を中止し互いに協力し合って魔王に対抗した。しかし、魔王の力は圧倒的で対抗できる力を持っていなかった人類は次々と国を落とされ人数を減らしていった。絶滅の危機に陥った人類は救済を求めて女神様に祈りをささげた。女神様は人類が協力し合い魔王に立ち向かっている姿に感動し一つの魔術と一振りの聖剣を人類に託した。
人類は女神さまの力を借りて勇者召喚を行い見事に勇者の召喚に成功した。人類は最後の希望である勇者にこの世界を救って欲しいとお願いした。勇者はそのお願いを快く引き受けて魔王討伐の旅に出た。そして勇者は魔物や魔族を倒し村や町を救いながら旅をし、途中で賢者、聖女、剣聖、守護者の職業を持つ者たちと出会い仲間に加えて魔王の元を目指した。彼
らはともに協力し助け合いながら進み、やがて魔王の元へたどり着いた。それから勇者たちはこれまでの旅で経験し培ってきたことを生かしついに魔王の討伐に成功した。
魔王を倒した勇者たちは誰一人欠けることなく帰還し、人々は世界を救った英雄として彼らを称え感謝した。その後勇者は共に旅をした賢者、聖女、剣聖、守護者と残った国の内の一つであるバルドレン王国の王女様と結婚し6人で幸せに暮らしました。
まとめるという内容になる。それにしても4英雄って女性だったのか。しかもこの物語ってハーレムなんだね。まぁ、確かに英雄色を好むっていうけどこれ絵本にもなってるんでしょ。いいのかなぁ・・・
ちなみにバルドレン王国は僕たちがいるアークライン王国に変わる前の国だね。
「なるほど、内容は分かったよ。それにしてもこの物語、聞いていると所々違和感を感じるんだよね。まぁ、でも今はいいか。説明してくれてありがとね」
「いえ、ご主人様のお役に立てて私はうれしいです!!」
「ふふ、じゃあまずは勇者召喚についてからせつめいするね。勇者召喚とは勇者を召喚するための魔術のこと。これは物語に書いてあるね」
「はい」
「魔術によって勇者をこの世界に召喚する。なら、召喚される勇者はいったいどこから来ているのか?」
「え?」
僕がそう聞くとミリアは首を傾げた。
「答えは簡単で異世界から、つまりこことは異なる世界から勇者を呼んでいるんだ。詳しく言うと、こことは異なる世界に住んでいる人の中から勇者の職業に適性を持つ人物を探し、強制的にこの世界に勇者として連れてくる。その際いに勇者として選ばれたものは拒否することが出来ない。これが勇者召喚の真実だよ」
「そ、そんな・・・」
僕の説明を聞いてミリアは瞳を大きく開いて、困惑している。別の世界から強制的に連れてこられるということは、その世界にいる家族や友人たちと無理やり離れさせられるということだ。
「そして、本に書いてあるように当時の勇者召喚の魔術は1人を対象とした普通の儀式魔術だった。しかし、歴史が進むにつれて術式は書き換えられ、現在は術式の発動の際に使用した魔力が多くなるにつれて召喚する人数が増えるという大規模儀式魔術に変わっている。そしてこの術式で探す勇者の適性は1人だけであり、発見された場合は魔力によって呼び出せるギリギリの人数の人を巻き込みながら勇者をこの世界に連れてくる。そして、過去に呼び出された者たちの殆どは黒髪黒目である」
「まさか・・・」
どうやら今の説明と僕の目と髪の色で気が付いたようだ。
「そう、勇者召喚に巻き込まれてこの世界に連れてこられて異世界人。まぁ、正確に言えば勇者の適性を持っていたため勇者としてこの世界に召喚されるはずだった異世界人だよ」
「てことはご主人様が勇者なのですか?」
「いや、違うよ。僕は勇者として召喚されるはずだっただけで勇者の職業は別の人が持っているよ。まぁ、勇者という称号なら持っているけどね」
「どういうことですか?」
「簡単な話、この世界へ召喚されている途中で神が介入してきて僕が持っていた勇者の職業を奪い、別の人物に譲渡したってこと。召喚されるものは召喚の途中で体をこの世界に適応できるように作り変えられるからね。その時に職業や固有技能を授けられるのさ。僕はこの職業が授けられた瞬間に神(どの神か知らないけど)が介入してきて勇者を奪われたんだ。そのせいで職業次に適性の高かった眷属使いの職業が授けられた」
まぁ、奪った神は許さないけど僕的には勇者より眷属使いの方がありがたかったんだけどね。
「うっぐ、じゃあ、ご主人様の職業は眷属使いとうことですか?」
「そう、最弱といわれている眷属使いだね。おかげで召喚された日に国王に殺されかけたけどね。ただ、神が勇者を奪おうと勇者召喚に介入していることに運よく慈愛の女神様が気づいてくれたみたいでね。大半は奪われちゃったけど一部を切り離して僕の称号として自身の加護などを加えて改造してくれたんだ」
だから僕は気にしてないよと伝えた。
どうやら僕のために泣いてくれているようだからね。
「とまぁ、そういうことで僕はこの世界の住人ではなく異世界人ということ。だから、この世界のことはまだほとんど知らないし、別に奴隷制度を否定するわけじゃないけど、僕自身は奴隷であっても奴隷としてではなく一人の人間として扱うということ」
「分かりました。ありがとうございます、ご主人様」
「じゃあ、次は彼女たちについて話そうか」
「はい」
そう言って僕はソフィーたち3人を呼んだ。
「まずこのタレ目でおっとりしているような見た目の美女が神器・魔導書の叡智の教本ソフィアーで呼び名ソフィー」
「私は、創造神様によって作られた神器でソフィーといいます」
「そしてこの語尾にじゃを付けている銀髪ロリ美少女が、勇者と4人の英雄に出てくる女神様から授けられた一振りの剣で、神器・聖剣の慈愛剣トゥリフェロニーアで呼び名がニーア」
「妾は、慈愛の女神様によって作られた神器でニーアじゃ。あと主様よ、ロリは余計じゃ!」
「そしてこの独特なしゃべり方をしていて着物を着た少し背の低い金髪美少女が神器・魔剣の宿木剣レーヴァテインで呼び名がレヴィ」
「うちは、鍛冶神さまによって作られた神器でレヴィやで」
「最後にあそこで転がっている3匹のスライムは特殊個体で僕の眷属でもある一美、二夜、三津紀だよ」
ぽよぽよ
一美たちは体を揺らしている。
「慈愛剣トゥリフェロニーアと宿木剣レーヴァテインてこの国の王家の家宝でしたよね!?そして叡智の教本ソフィアーも教会で神具として祀っていたものですよね!?ご主人様はすごすぎます!?」
「ち、近い!分ったからいったん落ち着いて!!」
ミリアは興奮しているのか鼻息を荒くして顔を近づけてきた。
「ハッ、すみませんご主人様。余りのことについ興奮してしまいました」
「いいよ、気にしないで」
ミリアは恥ずかしかったのか少し顔を赤くしている。うん、可愛いね!
「それから、僕は今ダンジョン攻略の訓練のためにこの街に来ているんだけど、あと数日でこの街を出て王都に戻ることになるんだ。それでなんだけど僕は王都に戻ったら家を借りる予定だからそこで暮らしてほしいんだ」
それから僕が今考えている予定をすべてミリアに話した。
「分かりまし。私が責任をもって家の管理をします!!」
ミリアはやる気十分のようだ。僕もスキを見てミリアに会いに行く予定だからね。時空間魔法がちゃんと使えるようになればもっといろいろできるんだけどね。もっと魔力量を増やさないと。
「それじゃ、ミリアを眷属化しよと思うんだけど奴隷を眷属化した場合どうなるの?」
「マスター、眷属化は奴隷契約の上位スキルですので奴隷契約が上書きされます。そのため奴隷から解放されることになりますが、奴隷契約の効力を残しておくことは可能です」
「なるほど、じゃあ奴隷契約の効力はなくてもいいかな」
「ご主人様、この首輪だけはそのままつけたままにしておきたいです」
「え?なぜだい?」
なぜ首輪を残したいのだ。・・ハッ、まさかそういう趣味があるのか!?しかし、僕にはそんな趣味ないよ!!
「たとえ奴隷でなくなってしまってもご主人様のものであるという証が欲しいのです」
「うーん、なら、僕が錬金術を使えるようになったら首輪じゃないけどチョーカーを作ってあげるよ。だから、それは外しちゃおう」
チョーカーならいいだろう。日本でも普通につけてる女性はいるからね。それにチョーカーならスキルの付与をしたり出来るからね。品質しだいだけど。
「むー、分かりました。それまで我慢します」
ミリアも少しずつ素の自分を出すようになってきた。良きかな良きかな。
「じゃあ、眷属化を始めるよ」
僕は例の長い詠唱をいつものように唱えた。
詠唱が完了すると魔法陣が現れミリアの中に消えていった。
〔個体名:ミリアの眷属化を確認しました。獲得するスキルを選んでください〕
僕は迷わず錬金術を選択した。
〔錬金術Lv1を習得しました〕
「よし!!」
錬金術獲得のアナウンスが聞こえた瞬間、うれしさのあまりガッツポーズをとってしまった。憧れの錬金術が手に入ったからね。これでいろいろ造れるよ。フフフ
「それじゃあ、話も終わったし今日はもうゆっくりしようか。夕食は僕がとってくるから部屋で一緒に食べよう」
「ありがとうございます」
「明日から早速錬金術の修行を始めていくから、素材集めのついでに冒険者のランク上げとお金稼ぎをしようか」
僕はミリアに明日からの予定を伝えて、夕食までのんびりしていた。そして、お風呂に入っているときソフィーたち3人とミリアが乱入してきたためいろいろ大変だった。いろんな意味で。
次回の更新は明日になります