戦う事、守る事の決意
「はぁ……はぁ。夢か」
目が覚めると、俺は寝室のベットに寝ていた。外は暗く、帰ってからすぐに寝てしまったようだ。
汗が服に張り付いている。まるで、真夏に運動していたかのような汗の量だ。
昼間に女神に説明したせいか……? 気持ちが悪い。
腹部から、内臓物が戻ってくるような感覚が襲う。
「うっ……」
ふたをするように、口元に手を添える。
頭が痛い、腹が、喉が、心臓が。全てが痛みを訴えていた。
このまま、記憶を失ってしまいたい。そう思いながらトイレに向かおうとするが。
ふたの意味も無く吐いた。
「・・・・・・大丈夫?」
扉の外では、女神が心配そうな表情でこちらを見つめていた。
あの後、他の帰還者に襲われる可能性を危惧し、女神を家に泊めたのだ。
空いている部屋があったので、そこで寝ていたはずだ。だが、そこまで声が漏れてしまったのだろう。
「悪いな、起こして」
そう言って、口元を拭う。
「……苦しいなら、もっと早く言いなさい」
そういって、女神は俺の頭に手を添える。
「安心して、ゆっくり寝なさい」
ゆっくりと俺の頭を撫でる。体の力が徐々に抜けていき、女神にもたれかかるように倒れていく。
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。だが、決して嫌になるような匂いではなく。
心が安らかになれるような、そんな匂いだった。
ゆっくりと瞼を閉じる。
ベットで寝なきゃ、そんな思いも無視するように体は重くなっていく。
その日の夢は覚えていないが、とても幸せだった。それだけは覚えていた。
目が覚めると、ベットの上にいた。
女神といた出来事自体が嘘のように思えたが、リビングに向かった時。
机に置いてあった手紙で現実なのだと思った。
手紙には性格を現すような、綺麗な文字で
「天界に用事ができたわ。また来るわね。純朴の炎夜」
と、書いてあった。
「愛想のないやつ」
と、苦笑い。最後まで手紙を見ると小さく。本当に小さなかすれた文字で。
「ありがとう」
と書いてあった。俺じゃなきゃ気がつかなかったぞ。こんなの。
「……素直じゃないな」
そう呟きながら、手紙を机に戻す。
外は太陽がほぼ真上にあり、昼間だと分かった。リビングから縁側に直で繋がっているのでそのまま向かう。
「禁忌……か」
太陽の下で、座り込む。
こんな何でも無い日が待ち遠しかった。
昨日の戦いは、異世界での戦いを嫌というほど思い出す。
血で血を洗い、一瞬の判断ミスで自分も、仲間も死んでいってしまう。
女神の言っていた禁忌については、よくわからない。
だが、俺の予想ではあの事件。
三年前のあの事件に深く関わっているという予想は出来た。
深く潜っていく意識を戻すかのように、キンコーンと、高いチャイムが鳴った。
庭にいたので玄関を覗くと、ふたばが不安そうな顔でドアを見つめていた。
「よう」
「あ、炎夜。良かった、無事だったんだね」
目が合うと同時に、ふたばは安堵したように息を一つした。
迷惑をかけたんだろう。その姿を見れば嫌でも分かった。
「悪い。また心配させちまって」
「ん、いいよ。今に始まったことじゃないしね」
彼女は、笑みを見せた。だが、それでもどこか浮かなかった。
だが、禁忌というものが大量殺戮であるとするならば俺は、止めなくちゃならない。
そうして俺は、女神と共に戦うことを決意した。