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過去の話を思い出そう

 やっと気がついたのか、意識がはっきりすると共に羞恥の念で耳たぶまで真っ赤に染まり始める。


 ぐっ、と女神は拳に力を込める。


「いや、待て、違う! 何もしてない!」


「……」


 俺の説得が通じたのか、女神は拳を納める。


「し、仕方ないでしょ。こうしないとあんた死ぬところだったんだし」


 保険室に常備されている、薄い布団を手に取り女神は体を覆うように隠す。


 それはそれで、……すこしあれだ。


「てか、……死ぬ?」


「うん。あなた、あの男の一撃で内臓の7割死んでたわよ。そして、炎を出した反動で右腕が大火傷」


 血の気が引く、というのだろう。なにか、寒気が俺を襲った。


「あなたの傷は、あなたの転生の担当をしたあたしじゃないと、治せないのよ」


 彼女は、目を伏せながら呟くように言った。


「そうか。助けたのに、助けられるとかかっこ悪いな」


「……いや。別に、悪くないわよ」


 落ち込む俺を、女神は慰めてくれた。前から思っていたが意外と優しいのだ。こいつは。


 俺の傷よりも、大事なことを思い出す。


「そういえば、やつはどこに行った!」


「襲ってきた男ね。とりあえす、意識はないみたいだから、連れてきたわ」


 女神は、正面のベットを指を指した。


 保健室は、事務用の机の他に4つのベットが対角線上に並んでいる。


 男はその一つの正面のベットに寝ているようだった。


「あの教室はどうなった」


「謎の爆発、って事に。それにあなたたちは、巻き込まれたって形になったわ」


「……」


 この男が起きた時。暴れだす可能性がある。


 正面のベットに、右腕を突き出し立ち上がろうとする。


 しかし


「いつっ……」


 自分の体じゃないかのように、手足がおぼつかない。


 ろくに、立ち上がれすらしなかった。


 こんな状態で、襲われたら……。


「まって。一度私に任せて」


 布団から手だけを出し


「「スキルウィンドウ」」


 と呟くと、俺がファイアーボールを出したときのような、女神の前に半透明のウィンドウが表示された。


「やっぱり、この人。昔、私が担当した転生者ね」


「なんだと? 恨みでも買うようなことでもしたのか?」


 女神は、手をこめかみに当て少し考えるが


「うーん、わからないわね」


 まったく分からないとばかりに、手を振った。


「それに、担当の私を襲ったら転生者も死ぬのよ。そう簡単に襲うとは思えないわ」


 は? さらっととんでもない事を言っていた気が。


「……なにこれ」


 女神は、ありえない。とばかりに、難しそうな顔をした。


「「所持品」部分に、「神の欠片」がある」


「神の欠片?」


「えぇ。簡単に言えば、私たち神の魔力の塊ね」


「それが、どうかしたのか?」


「かなり問題よ。「神の欠片」は普通の人間は触れることすら出来ないわ」


 触れることすらできない? 


「どういうことだ」


「神の魔力は、人間のものと違い格が違うの。普通の人間が触れたら暴走するでしょうね」


「暴走……」


 先ほどの戦いが脳裏に巡る。確かに、あれは暴走という響きがしっくり来そうだった。


「暴走したら、神の魔力を欲する。だから、私を襲ったのよ」


 俺は、息を飲んで男の近くに立つ。


「それを排除しない限り、コイツは暴れ続けるのか」


「炎夜のくせに冴えてるわね」


 暴言を言える余裕は、あるのだろう。その言葉はスルーした。


「とはいえ、大体の目星はついてるわ」


 これよ、といって女神が指したのは男のイヤリングだった。


「少し離れていなさい、炎夜」


 そう言って、女神はイヤリングに触れる。


 そして、何か言語として聞き取れない音を発し。


 部屋から影を無くすほど、激しい光がイヤリングから発生する。


 光の色は、深い海のような色だった。


 それが数十秒ほど続いた後、徐々に光が小さくなり。


 パリンっ、と乾いた音をたててイヤリングは割れた。


「……」


 固唾を呑んで、見守っていた俺は女神に近付く。


「……大丈夫か?」


 女神は、放心状態だった。


 そして数秒の後、彼女は振り返り、いつもの笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。 さぁ、帰るわよ」


「……おう」


 だが、先ほどの思いつめた表情は、短い女神との関係だが普通ではないことを悟った。


 女神は俺の見えない場所で着替えを終え、保健室を出た。





山から覗く夕日が、俺たちを薄く照らす。


「お前、あの世界に帰らねーの?」


 俺の言うあの世界とは、死んだときに召喚された真っ白な世界のことだ。


「天界のことね」


「おう」


「帰れないわ。一度天界に下りたら魔力が溜まるまで3日間は戻れないのよ」


「そういうもんなんだな」


「えぇ、あとあなたに伝えられなかった事があって。突然、あなたが現世に向かったものだから」


 ふと、あの時のことを思い出す。


 確かに女神は話をしている途中で、強制的に飛ばされた。


 まるで、何かに邪魔されたかのように。


「……そういえば、伝えたい事ってなんだ」


「言ってなかったかしら。あなたにはこれから転生者として生きてもらうって事と」


 女神は、そう呟き間を空ける。


 さっきの保健室で見た、神妙な顔つきで彼女は夕日を見つめる。


「「禁忌」を犯している神を捕まえて欲しいの」


「禁忌?」


「えぇ。あなたが転生させられた時のことを思い出してもらえればいいと思うわ」


 そう問われ、俺は三年前の出来事を思い出す。



三年前。


俺は、いつも通り学校をサボって商店街を歩いていた。


なんてことない場所で、主婦や同じようにサボった学生の姿がちらほらあった。


八百屋や肉屋など、それなりに繁盛しており、俺のことなど特に興味を示さない。


その時間は意外と好きだった。目的も考えもなかったけど、自由だった。


 だけど、そんな時間は壊された。


「キャァアアアアアア!」


 耳が裂きそうなほどの劈くような悲鳴が、俺のみならず周辺の人間まで襲った。


 当然、目を点にして声の方向を見る。


平日の昼とはいえ、それなりに有名な商店街であり人が多かった。


前の様子は確認できない。


「なんだ……」


 興味本位で見に行こうと、前に進んだ。


 それが間違いだった。


 気がついたときには、赤黒く塗られたトラックが俺の前に迫っていた。


 脳が動きを止めたのか、加速しすぎたのか。世界が止まって見えた。


 周りに倒れている人に視線を移す、この赤いトラックはその人たちの血だったと確信するにはそう時間はかからなかった。


 成人男性が何人集まってもびくともしないであろう質量の物体が襲ってくる。


 その絶望は言葉では表せない。耳鳴りが起き始め、脳が揺れる。


 夢であってくれ、その願いはどこにも聞き届けられることはなく。


 俺は死んだ。


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