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戦いの後に

男は大きく咆哮をし、現実離れした加速をして、女神の前に立ちはだかる。


 その一歩で俺の体は、遠くに吹き飛ばされてしまいそうだったが、対抗するように体を引き締め女神に手を伸ばす。


 このままでは、女神は一振りで肉片と化してしまう。


「「おはよう、炎夜」」


 こんな時に、彼女の笑顔が脳裏をよぎる。


 俺は、人間が嫌いだ。ましてや、俺を騙した女という性別なんてもっと嫌いだ。


 だが。


「目の前で死なれるのは、気分が悪いっ!」


 男の前に立つ。


「ああああぁああああああああ!」 


 喉から血の味がする。今の俺にあるのは、気合と根性だけだった。


「炎夜! 「スキル」を使って!」


 スキル? コイツが加速しているのもそれが関係しているのか?


 鈍い音が体の中から響く。


 それは男の拳が俺の内臓に打ち込んだ音だった。


 嘘だろ。この世でも異世界でも、感じたことのない衝撃。


 屋上から落とされるような勢いで、正面の黒板に背中をぶつける。


 教室の端から端の距離しかないというのに、とんでもない衝撃だ。


 本当に、人間かよ。こいつ。


 腹の中のものが、ぐちゃぐちゃになっているのが分かった。痛みを超えて、感覚がない。


 朦朧とする意識の中、男の姿だけは捉える。女神の前に立っている。


 やつはすぐに殺せると、確信して舌なめずりをしていた。


「……スキル」


 女神の言っていた事を反復するように、呟く。


「「こちらスキルシステム。霧島 炎夜 認証確認。今後、スキルの使用を認めます」」


 なんだ……これ。


「「使用可能スキル「ファイヤーボール」消費MP5」」


 ファイアーボール。異世界でも使ったことのある、最も弱いスキルだ。


「「使用しますか? YES? NO?」」


 しかし、やるしかない。


「いっつ……」


 足の細胞全てが、震えているのが分かった。


 痛みも、不安も全てが負荷を与えているのだろう。


 男は、驚いたようにこちらを見る。そして、確実に息の根を止めようと飛び込む。


「この時を待ってたんだよ! YESだ、システム!」


 右手を、前に向け叫ぶ。手が痛いほど熱くなるのが分かった。


 射線上に女神がいるため、体をずらし手を窓のほうに向ける。


「吹き飛べ!」


 人間ほどの大きさの炎が、男に向かっていく。


 男は、すぐさま手で十字を作り出しダメージの軽減を図ろうとするが、炎の勢いはそれを許さなかった。


「「ギグウウウウウウァアアアア!」」


 男の手を回り込み、鉄など物ともしなさそうな熱が襲う。


 打ち出された炎は、弱まることなくどんどん圧が高まっていく。


 暴走しかけている右腕を、左手で支え安定を図る。


 そして、勢いに負けた男は教室の外に押し出され下に落ちていった。


 その姿を確認したと同時に、炎の勢いが納める。


 どうやら、「スキル」というのは手や足のように意識して動かせるようだった。


 しかし……。


「はぁ……はぁ」


 体中に熱がこもっている。心臓が燃え尽きそうなほど熱くなっているのが分かった。


「炎夜……」


 顔を上げると、女神が心配そうな顔で俺の顔を見つめていた。


「なんだよ」


「……ありがとう」


 とても小さい言葉だったが、俺の耳にはしっかりと届いた。


「……ん」


 言葉を返そうと思ったが、喉が詰まった。


 決して、感極まったとかではない。そうではない。


 ないと思うのだが、その言葉は俺にとって衝撃だった。


 だから、変な感情が俺の喉を締め付けたのだ。


「これで、終わりなのか?」


 ごまかすように、外を見つめ話の続きに戻る。


「えぇ、他の転生者はいないと思うわ」


「そうか、なら。良かった……」


 とうに限界は超えていたのだろう。その言葉に安心し、俺の意識が遠ざかっていった。


「……また助けられちゃったわね」


 おぼろげな記憶の中、その言葉を理解できずに意識は途切れた。






「いつっ……」


 安らかな睡眠の中、鋭い痛みが俺の意識を覚醒させる。


 目を開けると、真っ白な天井が目に入った。嫌になるほど白いこの部屋は。保健室だろうか。


「……んぁ」


 軋む体に鞭を打ちながら、真横――声の方向を見ると


「ねむいぃ……あと五分」


 同じ布団に入る女神の姿があった。下着姿の。


 眼球を一気に上に向ける。


「お、おまっ! 何、やってんだよ!」


「……ん。なに」


 ゆるりとした一息をつき、眠そうに目をこする。


 ふりふりとした、水色のブラが俺の視界をジャックしようとしている。


 いや、下着自体はただの布だ。ただ、それを保健室で見るという背徳感が俺を責め立てるのに一役買ってしまっているだけだろう。


理性が砕け散りそうになるのを抑える。あかん、と。


「下着! 服! ダメ、絶対!」


 この状況により、崩壊した語彙力で説明しようとするも、出てきたのは単語のみであった。


「あ……」


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