日常の乱入者
授業も終わり、放課後にふたばと共にハンバーガー屋に寄り家に着いた。
「久しぶりで楽しかった」
心の底から言う。デスゲームから離れられたのはいつ振りだろうか。
心の底では、こんな日常を求めていた気がする。
「えぇ、私も楽しかったです」
ふたばも満面の笑顔を向ける。この顔は相当機嫌がいいときだ。
俺が転生するまでは当たり前にあった日々。
「・・・・・・帰ってきてよかった」
「? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
夕日も山に沈みこみかけている。その姿が俺をアンニュイな気分にさせたのかもしれない。
いけない、これからはこんな日々が続くんだ。暗い顔してちゃもったいない。
「それでは、行きます。また明日」
「あぁ」
見えなくなるまでふたばを見送った後、家の扉を開く。
玄関では、腕を組んだ女神が仁王立ちをして待っていた。
「・・・・・・ごめんなさい」
女神は、小さく呟いた。瞳は、少し揺れ何かに怯えているようでもあった。
「いや、俺こそ気が立っていたと思う」
その言葉を待っていたのか、自信なさげだった女神の瞳は明るくなり。
口をVの形にして胸を張った。
「わかったならいいわ! 大馬鹿の炎夜!」
そういって女神は身を翻し奥に向かっていった。
「どこいくんだ?」
「寝るわ。今日は観光で忙しかったから」
「観光?」
そう聞くと、女神はにんまりと笑い。
どこから出したのか手元から、がさっと袋を取り出す。
そこには肌の露出が多いアニメポスターやグッツが所狭しと詰め込まれていた。
「日本はいいところ!」
最近は女神もオタクの時代らしい。
「亀の炎夜。起きなさい。あんたの幼馴染が待ってるわよ」
目を開けると女神の、肌理細かな肌と澄んだ瞳が目の前にあった。
突然現れた女神のあどけない表情に、寝起きのせいか少しドキリとした。
童顔のせいか、その表情は似合っていて可愛らしかった。
目覚めから衝撃的だ。
「なによその、間抜けな顔」
もちろん開幕に罵倒されるというオプション付き。
「寝起きは誰でもこんなもんだ」
「・・・・・・そうなのかしらね。というか、時間まずいんじゃないの?」
掛けてある時計を見ると、8時を回りかけていた。
「まずいっ!」
別に俺は遅刻してもいいがふたばも巻き込むのは申し訳ない。
「向かう!」
一言で状況を伝え、外に出た。
「ハァ……ハァ……。寝起きが悪いのは、変わらないですね」
「仕方……ないだろ。眠いもんは眠いんだ」
人生で一番早いんじゃないかと思うほどのスピードで学校に到着することに成功。
向こうの世界では、ひとっとびだがこっちでは無理みたいだった。まぁ、当然か。
同時に教師も入ってきて授業が始まる。
「懐かしいですね、この感じ。いつも走らされました」
「確かにな」
俺たちは顔を見合わせ、堪えるように笑う。
むにゃむにゃ言った教師を尻目に大きくあくびをして席に座り込む。
そういえば、どうして女神はこっちにきたのだろうか。
今更、って話だが忘れていた。戻ってきてから大変だったしな。
「そうね、忙しかったもの」
「ヴォア!」
蛙が潰されたような声をあげ、ひっくり返る。
心を読んだように返事された驚きと、目の前に女神がいる驚きのダブルパンチ。
「そんなに、卒倒することないでしょ? 驚いた姿に驚きよ」
「いてぇ……何だよ。家で待ってればいいじゃねーか」
起き上がりつつ女神に質問する。ここにいられるのも正直、迷惑だ。
「騒音の炎夜がいなければ、そうしようと思ったわ」
「前々から思っていたが、何々の炎夜って言うのやめろ。なにかのタイトルみたいだろ」
「……で。そう思ってたんだけど。近くにいるのよね」
ここで俺、沈黙の炎夜。
「近くに? 何がだ?」
「あなたと同じ人間よ」
はぁ? その言葉は喉元で止まった。
腹の下から押しあがるような爆音によって。
「来たわね。行くわよ、鈍足の炎夜!」
ここは、俊足の炎夜。さっと、女神の後ろにつく。
女神は、廊下の奥に向かう。
帰還者についても聞いていないしこのまま放っておくわけにも行かない。
俺も女神の後についていこうとする。
「いくんですか?」
突如背後から声が聞こえた。そこには不安そうな表情で見つめるふたばの姿があった。
「あいつを一人にはできない」
「……あの子。誰ですか」
「よくわからない」
「何ですか、それ」
「本当だ。だけど、行かなきゃダメな気がする」
俺はそう言って、ふたばを置いて奥に向かった。
少し走ると、女神の姿が見えた。
「ここなら、人も少ないでしょう」
彼女は誰もいない多目的教室に入った。
部屋の中は、普段の教室と変わらず椅子や黒板も同じように設置してある。
普通の教室と違う場所があるとすれば、薄く埃がかぶっている事くらいだろうか。
この教室の周りは人通りが少なく、話すには絶好の場所だ。
「一つ聞きたい。あの帰還者ってなんなんだ?」
「そうね。まずはそこの説明から始めた方がいいかもしれないわね」
女神は、顎に手を当て眉を寄せて思考する。
そして、そこから紡がれた言葉は、
「まず、あなたは「帰還者」(リバイバー)として……」
ミサイルの様な勢いで入ってきた、何かによって掻き消された。
コンクリートで補強された教室の壁は、豆腐のように崩され校舎全体を揺らす。
「なんだこれ、人……?」
土煙が巻き上がり、視界は最悪だがシルエットだけは判断できた。
「「アアッァァアアアア!」」
それは、間違うことなく人間だった。
同じ学校の制服を着込み、くすんだ金髪をした男の姿があった。
表情は、俯いていてうまく確認は出来ない。
「炎夜! 逃げるわよ! あれが・・・・・・「帰還者」よ」
だから帰還者ってなんだよ!
そんな思考は放棄し、女神の指示に従おうとする。だが、そう簡単に見逃してもらない。
「「ニゲルナァアアア!」」
12時ごろにまた出します。