表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

帰ってきた日常







「ごめんね、エンヤ」


 そういって、妖美な笑みを浮かべたし女性は、一歩下る。


「な、なんで! 約束の話は! 師匠は!」


 俺の五倍ほど近くある高さのある扉は、重々しく閉まっていく。


 そこは、ダンジョンの入り口であった。


 職業が「村人」である俺が生きて帰れる確立は限りなく低い。


「あの人には死んでもらわないといけないの。あなたにもね」


 俺は、ゆっくりと閉まっていく扉の中から思ったことがあった。


 女は、怖いものだと。綺麗であれば、綺麗なほど人は騙されてしまうのだと。




















 嫌な夢を見た。


 重いまぶたを上げ、天井を見つめる。


 この天井には、腐った土も骨も、魔法もかけられていない。


 それだけでも、俺は安堵する。


 戻ってこれた、よかった。


「おはよう、炎夜」


「は?」


「パンと卵と、ベーコンを買っちゃったからフライパンで焼いてあげるわよ!」


「……は?」


 跳ねるようにソファから体を起こす。まるで臨戦態勢に入るかのよう。


 視線の先では、食欲をそそられるような匂いを充満させながら、食器を並べる女神の姿があった。


「何やってんだお前」


「何って見て分かんないの。馬と鹿ね」


 多分、馬鹿のことだ。こいつも、馬鹿じゃん。


 昨日も言ったが、女と一緒にいるのは苦手だ。それに、嫌な夢を思い出した。


「そりゃ見て分かる。俺が聞きたいのは何でお前がここにいるのかってことだ」


「私が来たかったから来たの。いいでしょ、別に。・・・・・・小さい男ね!」


 プツン、と頭の何かが切れたんだと思う。


 三年ぶりの自宅の時間を邪魔された挙句、勝手に家に入ってこの言い草はないだろう。


「あぁ、そうかい」


 話にならないと、彼女の言葉を聞かず外に出る。


「ちょっと、炎夜!」


 去り際に見えた女神の表情は、想像とは違った。


 なんで悲しそうな顔してんだよ。








「……暇」


 教室の隅っこで、机に足を投げ出し椅子に腰掛ける。


 結局あの後、外に出て少し考えたがやることがなかったので学校に来た。


 まぁ正確に言えば、やることがなかったので消去法で来た。


「しかし、来たところで暇なことは変わらんな」


 選択は失敗。


 こんなことをしてもなにも起きない。


 元々不良と呼ばれ、問題児扱いをされてきたのだ。関わる人間などいるわけがない。


 授業が始まる十分前のチャイムが鳴る。


 懐かしい。いや、あの頃の魔法学校でも流していた気はするな。共通なんだな、


 などと変なところで関心をしながら、ぼうっと天井を眺める。すると、誰かがぬんっ、と俺の顔を覗いた。


「……なんだ」


 そこには、頬をぷうっと膨らませた幼馴染 黒羽 ふたばがいた。


 淡いピンク色の眼鏡に、薄い茶髪。目立ちはしないがそこそこ顔立ちはいい。


「三週間、どこに行ってたんですか」


「どこでもいいだろ。いろいろあったんだ」


「これでも心配したんですよ。それなりに」


「そうか」


じーっ。


「・・・・・・」


じーっ。


「・・・・・・なにか一言」


 何か、言いたげな瞳。


「・・・・・・すまん」


 この目には過去に一度も勝てたことは無かった。


 腐れ縁と言っていいほど昔からの付き合い。幼馴染というやつだ。


 気がつけばコイツがいて、異性とか関係ないくらい遊んでいた。


 この無神経質そうに話す姿が懐かしい。気をつかってないふりがこいつっぽい。


「まぁ、詳しくは聞きません。ですが、いつものハンバーガー屋で新商品が出たみたいなので……」


「へー」


「・・・・・・食べたいなぁ。と」


「わかった。放課後な」


 それで手を打ちます! とふたばは薄い胸を張った。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ