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とりあえず、帰還

「「あああああああああ!」」


「ここ、三階だぜ……?」


 一言で今の状況を表すとしたらこうだ。


 きたねぇ金髪の男が、教室にマッハで飛び込んできた。


 なにが起きてんだ、これ。


「炎夜! こっち!」


 教室の前で白銀の髪をした少女が、俺にこっちにこいと指示をしている。


 向かおうと足を向けるが、予知していたとばかりに男は少女に突っ込む。


 一筋の線のようになって加速いき、そのスピードはまるで戦闘機を彷彿とさせられた。


「逃げろ!」


 声は届かない。


 このまま、少女が殺されるのを見ているだけか。


 いや、


「そんなの許せねぇ!」


 俺の怒声に反応していくように、右手がマグマのように熱を帯び始める。










ラストダンジョン・魔王城






「死んどけ!」


 神の光で創られたと言われた剣は、魔王の首を何の抵抗もなく切り裂く。


 切り口から、よく振られた炭酸飲料のように血が吹き出す。その様子を見て


「いつだろうな。最後に飲んだの」


 と、現代のあの味を思い出す。うぅ、飲みたい。


 一息つき、周りを見渡す。


 いかにも魔王城。


 無駄にでかい赤色のカーペットが入り口から、大人三人分ほどありそうな椅子。


 周りは、四天王と名乗りを上げた死体が転がっている。


 血が部屋全体を這うように飛び散っており、元々赤の色が強い部屋は、遂に真っ赤に染まった。


 まるでプリクラの背景みたいだと、揶揄したいが現世すら浮いていた俺はプリクラを知らない。


 まぁ、こんな背景のプリクラも嫌だけど。


 首を上に向け、瞼を閉じる。


 ここまでくるのに、三年目かかった。


「炎夜!」


 霧島 炎夜。それは久しぶりに他人の口から聞く俺の名前だった。


 弾かれるように、声の方向を見る。


 そこには、先ほどまでの血に塗れた殺伐とした部屋は面影もなく、水平線まで見えるほど真っ白の空間。


 中央には、豪華な椅子に美少女が座り込んでいる。


 滝のように流れる銀髪は、まるで本物の銀と遜色の無いほど綺麗で神々しさを感じた。


 顔立ちは、まるで神様が生涯をかけて作ったのではないかというほど美しい。


 そして少女は、満面の笑顔を向ける。


「遅すぎ!」


 愛嬌がふんだんに詰まった笑みだった。


 俺の頭に全身の血液が上る。


「んだとぉおおおおお!」


 女と俺の間にさほど距離はなく、十歩も歩けば前に立つ事が出来た。


「お前に無理やり転生させられてやったことだぞ!」


「……ごめん」


「あ? 聞こえねーよ」


 女はうつむいて何か呟いていたが上手く聞こえない。


「人に喧嘩を売るときは、メンチを切れと親に教わらなかったのか?」


 まったく、常識のないやつだ。


「し、知らないわよ! 仕方ないじゃない!」


 逆切れとは、いい度胸だ。


 女は立ち上がり、俺の胸元まで顔を近づける。


 立ち上がってるはずなのに結構小さい。


 一応女神だからか、女だからか、ほんのり軟らかな匂いが、鼻腔をくすぐる。


しかも、結構あるところは……ある。


「……おう」


「私の話聞いてんの?」


「あぁ、聞いてる、ぞぉ」


「語尾が気持ち悪いわよ。眼球も上向いてるし。死んだ魚のほうが綺麗よ」


 仕方ないだろ。生まれてこの方綺麗な女子と話したことがない。こうなるのも当然だ。


 だが、あまりに暴言が酷すぎる。高飛車とかそんな枠を超えている。そもそも俺の心が折れかねん。


「ふん……まぁ、少し言い過ぎたかもね」


 意外と優しかった。


「と、とりあえず。本題に入りましょう」


 女は、小さなため息を吐きながら深く椅子に腰をかける。


「あなたには、重大な選択をしてもらうことになるわ」


 けだるそうに手をあげ、指をパチンと鳴らす。


 同時に、俺の前に半透明のウィンドウが現れた。


「どれか、選んで」


「おう」


 ポチリ。


 とりあえず、帰りたくて一番上を押してしまった。


 認証が完了したのか、書いている文字を読む間もなくウィンドウは消え去った。


「え、は? え?」


 女は、目を見開いて動揺している。瞳孔も開いていた。


 俺、何かやっちまった? などといえる雰囲気でもない。何かやらかしたからこの反応なのだ。でも帰りたかったんす。サイダー飲みたかったんす。


「な、何選んだのよ」


「え、なんだろう・・・・・・なんでも、いいだろ! こらぁ!」


「開き直らないでよ! 切れ方雑だしっ!」


「「……」」


 音一つ無い沈黙が俺らを支配する。


 ピピッ、ピピッ。


 そんな二人の意識を引き戻すように、何かが電子音を奏でる。


「はぁ・・・・・・もう、こんな時間」


 女は、胸元からひよこのタイマーを止める。


 あれは、昔百円ショップで見たことがある。意外と女神も庶民派だ。あれ、壊れやすいよな。


「一人、10分。普段どおりなら滞りなく進むのに」


 ムスッとした表情で女はこちらを睨む。どちらかというと諦めが6割ほどある気がする。


「あなたには、これから――」


 停電でも起きたかのように、不意に視界が真っ暗になった。


 女は、時間があるように振舞っていたし、話の途中のはず。


 瞼を開けると、閑散とした住宅街の路地の真ん中にいた。


「あ?」


 現実世界。元々俺が生きていた時代だ。


 ポケットにあったスマートフォンを取り出す。


 日付は、俺がトラックにはねられて三週間後を指していた。


「……わけわかんねぇ」


 吐き捨てるように、呟く。そして一つ、大きく深呼吸をする。


 懐かしい、そんな感情が胸を支配した。


「よし、帰るか」 


三年ぶりの道を思い出しながら、家への帰路についた。









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