第三話:知らないこと
「おはよ~。」
眠そうな声で可奈と由奈に挨拶し、机に鞄を置く。そして深く溜め息をつき、椅子に座る。
「おはよ。どうやらお疲れの様だけど、どうだった?アティクタ。」
可奈は低血圧のせいか、疲れた顔で話しかけてきた。
「可奈~、由奈~、聞いてよ~。」
けど、お構い無しに昨日あったことを話した。
少し準備に手間が掛かった事、ゲームの中に入れたけど、お目当てのモンスターに一匹しか遭えなかった事、しかもその一匹倒したら、時間がもう無く、ログアウトボタン押したら、いきなりウインドウが出てきて、うんたらかんたらと面倒なのが出て、仕方がなく村に帰ってログアウトした事を。
「ねぇ…あれ、人気0のゲームって言ってたよね?」
ジロリと二人を睨む。
「……そ、そう言えば、言ったね…そんな事。」
由奈はしどろもどろな応対をし、可奈に助け舟を出した。
「へぇー。居たんだ。プレイヤー。まぁ、オリジナル能力があるから、飽きるまではやるでしょうね。」
腕を組んだまま机に乗せ、仕方がないでしょ、という感じに肩を竦めた。
「けど、森から出なかったのも駄目だったね。ん…とね……これ見て。」
可奈は鞄を漁り、スマホを取り出すと、アティクタ公式サイトと書かれたサイトを見せた。
「アティクタについて色々と載ってるサイトなんだけど……はい。見て。」
ヒュザム大陸一覧と書かれた項目をタッチし、マップが出て来た。
「多分、一番最初はオルフレン村から始まるはずだから、珱花の言ってた森はケペナの森。ほら、見なよ。ケペナの森の面積、この大陸の十分の一じゃん。プレイヤーがわんさかいんのはこれが原因。……あと、ログアウトは外でも出来るよ。」
可奈は次にログアウトに関しての項目にタッチし、見れと言って来た。
「文字数多いの見るの嫌なのにな……えーと、何々?…村や町等の安全地帯以外でもログアウト可能。但し、安全地帯以外の場所の場合、ログアウトに三十秒程掛かります。……。」
ね?あったでしょ?とばかりに首を傾げ、可奈はスマホを受け取った。
「まあ、珱花はVRMMO自体が初めてだし、ゲームすっごく知ってる訳でもないから仕方がないでしょ。……でなんたけどさ、どうだった?」
つい先程までの、仕方がない、の諦めた感じの表情ではなく、目を期待で輝かせ、こちらを見た。その可奈の姿は、あまり学校では見ないゲーマーの姿だった。
「え?……何が?」
それに引きながらも、逃げないよう踏ん張る。
「何って…アバターだよ!アバター!確かアティクタじゃ外見はランダムで構成されるんだけど……まさか、見てない?」
……コク
黙ったまま頷き、沈黙した。
「……まぁ、今日もやるっしょ?その時に見なよ!」
「ん…」
はっきり言って、気づかなかった。確かに一番最初にやった設定じゃあ、名前とか性別しか設定してない。けど、全然違和感が無い。それどころか、現実と同じ姿だと思っていた。
「はぁ……疲れるな…」
可奈達と喋っていたので、手付かずになっていた鞄から、一冊のノートを取り出した。
「え?珱花勉強するの?」
「いや、暇だから詠唱のスペル覚えと置こうと。」
「……が、ガンバ…。」
その後、何人かの先生にそれ何語!?と言われたのは言うまでもなかった。
学校も終わり、猛ダッシュで家に帰り、母へ“ゲームしてます。ご飯になったら宜しく”と書き置いて、ゲームを始めた。
~オルフレン村~
意識がはっきりとし、ゆっくりと瞬きをした。そのまま、自分の姿が見えるように、村の家の窓を見た。
「……なんだ。ほとんど同じじゃん…」
現実世界でもお馴染みの肩ぐらいまである黒髪に、童顔と呼ばれる原因でもある、ぱっちりとした大きい目。服装は初期装備のままだ。
ふー、っと息をつき、次にウインドウを開いた。
実は昨日、黒狼を倒した時に経験値を手に入れたのが、どのくらいか見ていなかったのだ。が、見てみると、経験値はたったの3だった。
実に顔が引きつった。
次はスキルの項目をタッチした。
現在、レベルアップも何もしていなかったので、スキルポイントは0だったが、項目は見れた。
それぞれ、体術、剣術、自動回復等々あった。
それとなく、自動回復のスキルを見ると、HP回復があった。スキルポイントは20必要だった。
「……ここにいても、レベルアップは無理だし、ハイリンにでも行くか。」
私は、そう言ってオルフレン村を後にした。