幕間2 続 とある骨董品店の光景
幕間2 続 とある骨董品店の光景
「あ、この間の調べ物で答えが分かりましたよ!」
「え。分かったの?」
「はい。犬神の儀式と食屍鬼の関係なんですが」
「繋がったの?」
「微妙に。と言うのは、『屍食経典儀』に食屍鬼になる方法が幾つか書いてあるんですよ。その中に、聞いていた犬神の儀式に近い物があったんです。ただ、ほんのちょっとだけ書いてあっただけなので確定とは」
「『屍食経典儀』はダレット伯爵が趣味で蒐集した禁断の知識を詰め込んだと言うからな。信憑性の高い低いは拘らなかったのだろうか」
「うーん、いえ。もしかすると当たりかもしれません。犬神を使役する事で犬神憑きと言う状態になるんですが、これが色々と言われているんですよ。民俗学的には渡りの呪い師を差別する為の理由づけなんですが」
「差別の理由づけって何ですか!」
「身分が卑しいとか、内臓を食べてるとか、京都の人間じゃないとか」
「身分制と言う物は心理学的にも人間を統治する最も有効な手段と言われている。心理学と神話と言う物はリンクするのだが、支配の理論として神が定める身分制度はどこにでもあるのだよ。現代社会ではその弊害も大きい訳だが。関西だと戦後でも根強くあったからな。いや、今も残っていると言うべきか。キリスト教や仏教にも隠喩と言う形で身分制度が刻まれているんだよ」
「選民思想自体が身分制度を肯定する為の理論ですからね。差別に関しては日本の残念な黒歴史ではありますけど、オカルトの面から見ると奇妙な一致もあるんですよ。犬神憑きの中でも状態が進むとある者はこうなると言います。つまり『面相は犬の如く成り、肌は浅黒く濁り、体毛は抜け落ち、死肉を好むようになる』とある。似ていると思いませんか?」
「………何ですそれ。食屍鬼そのものじゃないですか」
「仮説だけど、もしかしたら犬神と言う呪術は、もともと己を食屍鬼に変える術だったか、あるいは食屍鬼になる副作用があったんじゃないだろうか? うん。犬神と言う術は歴史的に見ても特異な呪術だと思ってたんだ。民間呪術の系統なのにとてつもなく強力で、蠱毒の流れを組む。しかもデメリットも大きい。原典はたぶん大陸から流れてきたもので、ひょっとすると『屍食経典儀』に類する魔道書だったんじゃないだろうか? 食屍鬼に成るのが主目的の」
「すると、おまえが見た儀式跡と言うのは、単に犬神の呪術を真似した物ではなく、食屍鬼に成る為の儀式だった可能性があると?」
「もしかしたら、ですが。まあ最悪、誰かが食屍鬼に成るとしてもそれは本人の選択ですから。犬の犠牲は増えるかもしれませんが」
「大変じゃないですか! すぐ調査に行かないと!」
「ええー。向こうじゃお巡りさんが頑張ってるし、僕らのできる事はもう無いよ?」
「規模は低いからな」
「ちなみに、今回の事件を立件すると、『公共施設への生ゴミ放置』になり、最大罰金10万円」
「お金の問題ではないと思うんですが」