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ヒトガミサマ  作者: 山和平
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序 羽邑北高校七不思議

夏ホラー投稿失敗です。

クトゥルフ神話&七不思議の無理矢理感をお楽しみください。

序 羽邑はむら北高校七不思議


 以下に挙げるのは当校に伝わる七不思議である。

 学校の七不思議と言う物は世の中に良く知られているが、多くの場合、都市伝説の流伝や漫画などのメディアから影響を受ける為、日本全国でも大体似通う事が多い。これは元々無かったものを流用したからとも言える。

 もちろんご当地アレンジも有り、細かく見れば多彩と言えるかもしれない。

 しかし当校に伝わるそれは、他にあまり見ないオリジナリティに溢れている。

 学校の敷地が元墓地や元処刑場と言う都市伝説はよくあるが、基本的にはガセである。

 ところが、当校の場合は市の歴史にしっかりと刻まれた事件が起きた場所である。

 昭和25年の大火事によって、当時大地主だった一族がここで一族郎党全員が焼死している。死体も確認できないほど、大規模な火災だったようだ。

無縁の土地になったこの場所が市の管理地と成り、後に昭和30年代末に普通科高校の必要性に迫られて行政が土地を利用したと言う経緯がある。

 こう言った経緯から、当校の七不思議はその事件にまつわる物が多いのでは、と言う仮説が立てられた。 

 遡れば開校当時から四十年以上伝わる、羽邑高七不思議の詳細をここに発表しよう。


一つ 焼け爛れた男

 夜の学校に忍び込んだ生徒が目撃する怪異。

明かり見えたので見廻りの教師かと思い咄嗟に身を隠したが、明かりの具合がおかしい。気になって覗いてみると、全身に炎を纏う焼け爛れた男が居た。

 過去学校ができる前に起きた大火に関係する七不思議と考えられる。

 その為か、出没する場所が旧校舎・新校舎・校庭・校門など広範囲と言う学校の七不思議に有るまじき行動範囲を持つのが特徴。過去の研究では『二宮金次郎』系と共通すると指摘されている。

 話によってはほぼ至近距離と言う遭遇があるが、逃げ切ったと言うオチになり実害が出ると言う話は無い。


二つ 裏山の首塚

 当校の裏手には標高二百メートルほどの山がある。一応敷地内とは言え、この場所を七不思議と勘定するのはどうかと思うのだが、この山には『首塚』と呼ばれる小さな社がある。

 元々はこの地で栄えていた一族の氏神ではないかと思われるが、資料が無くはっきりとした事は分からない。何故首塚と言う言葉だけが残っているのかも不明。

かつて何度かこの山で首吊り自殺が起きたと言われている。学校ができてからは、いじめなどを受けて死を覚悟した生徒が何故かこの山で首を吊るらしい。

 まず『首塚』と言う名前から、学校の怪談定番の『敷地が元墓地』あるいは『敷地が元刑場』と言う連想が出た事は想像に難くない。

 また典型的な『首吊りの名所』的怪談であり、この手の話は江戸時代からの古典である。

 しかし統計上学校の生徒がここで首を吊った事件は報道されただけでも三十年間に六件。未遂、隠蔽を含めば倍以上になるのでは、と考えられる。一つの学校から自殺者が何人も出る、と言うのは全国的に見ても珍しい方と言える。ついでに言うと、判明した内四件は十年以内に発生しているが、これは全国的ないじめ被害による自殺者上昇とリンクしており、そう言った世情と『首吊りの名所』が呼応したようにも思える。


三つ 封じられた地下防空壕

 当校は大火事で焼け落ちた大地主の敷地に建てられた事は先に述べた通りである。

 この大地主一族は、戦時中に一族郎党が避難できる防空壕を敷地内に作っていたと言う話がある。実際、敷地の一部である裏山にはそれらしい物は無く、緊急の避難の為に敷地内に作っていたと言う可能性は高い。日本全国でも人が集合しやすい古い小学校や寺社に洞穴型の防空壕が作られた例は多い。

 しかし、周囲にそれらしい物が無いと言う事から、地下に造られたのでは、と言う噂になるのは当然の成り行きだろう。今でも学校の敷地内のどこかに入口があると言われている。

 戦中にも関わらず羽振りの良かった大地主一族専用の防空壕であり、学校の七不思議には珍しく財宝譚が関わっているが、これを求めた者が、精神不安定状態で発見されたと言う話が残っている。

 コンクリート建築技術自体は大正期からあり、軍艦島などでは家屋に使われたと言う。この事から、地下にコンクリート製の空間があっても不思議ではない。

 学校の地下に何かがある、と言うのも七不思議の定番であり、それが結びついたとも解釈できる。


四つ 鋸巫女のこぎりみこ

 質問怪人系の怪異。

 夕闇の時刻に校舎内で女子が一人でいると、白い布で顔を隠した巫女装束の女性が生徒の前に現れ、「恨みはあるか」と問う。

 「ある」もしくは「誰々が憎い」と答えると、捕まって手に持っている大鋸で首を斬られる。

 「ない」と答えると、捕まって手足を斬られる。

 赤マントなどの例同様に、恐ろしい内容とは裏腹に犠牲者が出たとは思えないスプラッタ系である。

 注目すべきは現れるのが巫女である事と犠牲者が女子限定である事。

 白い布、あるいは紙で顔を隠すのは忌み神事で行われる。祟り神や怨霊の類と顔を合わせないようにする為の他、人の吐く息を穢れと考え、神体に向けないと言う意味合いがある。

 鋸と巫女、と言う組み合わせも奇妙である。大鋸と言う事は木挽きか大工の筈だが、巫女となると異様である。確認されてはいないが、この地に巫女が鋸を振るう儀式でもあったと言うのか。『首塚』との関連性も考えられる。

 近年では白いのっぺらぼうの仮面を着けた女子の『鋸花子』と言うバージョンも存在する。何故か夏服のパターンを『鋸花子』。冬服のパターンを『黒乃ナイ』と呼ぶ。いずれも質問は同じであり、鉞のような大鋸で危害を加えると言う部分も同じ。重要なのはやはり鋸なのかもしれない。

 定番として、助かる為には「口に榊を被せろ」と言うなぞなぞのような物から、「××子さんはあちら」と言う擦り付けパターンもある。登場するバージョンによって退散の呪文が異なる、と言う説もある。

『赤い紙青い紙』系と呼ばれるものと『赤マント』系と呼ばれる怪談が融合するバリエーションは実に様々だが、この『鋸巫女』もその影響を受けたのでは、と思われる。なお、夏服に鋸と言うパターンは、某同人ゲームの流行後に発生したが、冬服パターンについては、証言が数十年前と古い。


五つ 禁忌の寄贈図書

 羽邑北高校は、旧制中学を持たないこの地方にとって待望の高等学校だった。

 その為、開校の際にはお祭り騒ぎになり、中でも実に多くの蔵書が住民より寄贈されたと記録に残っている。

 冊数にして七百冊を越えていたらしい。単純に考えても百万円近い寄付があったと思われる。

 旧校舎一階に設けられた図書室は智の宝庫のようであり、開校当初の自慢とまで言われた。

 寄贈された中には古文書の類もあり、それらは貸出禁止の秘蔵書籍として扱われた。

 ところが、その中に一冊だけ、由来の分からない奇妙な本があると言う。

 誰が寄贈したのか、いつ寄贈されたのか、全く不明。

 極めて貴重な古文書であると言う一方で、その内容は余りにもおぞましく、読む者の精神状態を悪化させると言う。

 旧校舎の頃、この古文書の解読に挑んだ生徒が狂気に憑りつかれ、精神疾患のサナトリウムに入所したと言う話がある。

 現在、旧校舎にあった図書室は新校舎に移設された。その際に貸出禁止文庫も保管庫に移動したが、それらしい物は見つかっていない。

 学校の怪談にしばしば現れる『呪いの道具』系のパターンであると思われる。


六つ 無数の犬の声

 夜の校舎内、特に体育館に居ると突然無数の犬に囲まれて吼えられるような現象に出くわす。

 不思議な事に、この声は他の人間には聴こえないらしい。

 体育館の他、プールや教室でも吠え声が聴こえる事もあるが、やはり聴こえるのは一人だけである。

 声を聴いた者は体調を崩すとも、謎の病死に至るとも言われている。

 特徴的には『古屋の家鳴やなり』に代表される音系の怪異であると言える。

 体育館はその構造上、音が響きやすい。

 また体育館の床下に動物が入る事は多い。その声が聴こえたとしても不思議はない。

 犬の声は古来では魔除けであったが、同時に犬を使う呪術も存在する。

 また、犬ではなく狼と言う場合もある。狼の場合は祟り神の系譜にあり、無用に触れれば怒りを買うとされた。

 体調を崩す、死に至ると言うのはそれらの流れを組む話なのかもしれない。


 学校の怪談、特に七不思議と呼ばれる類の物は、七番目は大概謎である。知ってしまった者には恐ろしい災いが降りかかる、などのオプションが付く。これには「実は八番目がある」と言うパターンもある。

 しかし、羽邑北高校には七番目がはっきりと存在する。とは言え、七番目らしく極めて謎の多い物であり、現時点で我々もその詳細を掴めていない。


七つ トコカワカズコ

 おそらく人名ではないかと思われる。しかし民間の呪文のようにも取れる。

 どんな現象なのか、どんな災いが起きるのか、全く不明で、ただ「七番目の不思議はトコカワカズコ」と言う情報だけが昔から存在する。

 人名が怪異となる都市伝説は、80年代後半からの新潮流であると言われる。

 もちろん、人が祟り神になった例は歴史に見ても快挙に暇がない。

 しかし、その場合は必ず怨みの由来がある。むしろトコカワカズコは都市伝説のカシマレイコに近いような雰囲気があるが、はっきりと違うのは「何が起きるのか分からない」ことだ。

 一見学校の怪談に関係無いような『メリーさん』『ブキミちゃん』のようなパターンもある。

 アンタッチャブルである、と言う事だけが伝わっているのは七番目らしいと言える。


199×年 文芸部及び超現研による羽邑祭発行文集より


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