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新たな道へ

 目の前で馬車を襲おうとしているのはどう見ても山賊だった。

 山賊というのは大抵が冒険者崩れか傭兵崩れ、そして一番多いのは兵士や不作で食い詰めた農民である。

 今回の山賊はどうやら傭兵崩れといった所で、武装もしっかりしているが二流所だろう。

 魔剣士もいなければ魔法士もいない、数を頼りに徒党を組んでいる。


「新手だ、殺せ!」

「オラア!」

「ぶっ殺せぇ!」

「男だ殺しちまえ!」


 ソロでB級までにもなったノート、今では通常の体裁きと剣の腕前だけでも剣士としてやっていける実力がある。

 体つきが若干逞しくはなっているのだが、何よりも此れまでに倒した魔獣や魔物の数がその力を高めていた。


 実はノートが強く成れないのは倒した魔物の魔力を糧にして、少しづつ魔力値や肉体の筋肉の質が代わるという体質の為だったのである。

 『魔につらなるモノ』を倒せば倒す程強くなるというその体質は、実践に出る事が無い限り発揮される事は無かった。

 しかも徐々にしか強くなっていかないのだから、未だに本人もこの仕組みに全く気がついていない。

 もしも強大な敵に遭遇して倒していたりする事があれば前後の違いに気がついた可能性はあったが、『冒険者は常に安全マージンをとり続ける』というミラ仕込のノートにそんな機会が訪れる事はありえなかった。



 しかも、ソロでB級とういう異常なほどの強さになっているにも関わらず、本人が『やっと一人前になれたなあ』などと思っているのだから始末に終えない。原因はランクBの『剣士のにいちゃん』ミラの旦那さんで、パーティーB級とソロB級は違う事に気が付いていないだけだった。


 よって高々食い詰めた二流の山賊などが気勢を上げて踊りかかろうとも問題はなかった。


 襲い掛かってきた敵を全て一刀の下に切り伏せていくノートの動きを誰一人として見切れなかった。

 瞬間的に3倍の速度で動く人外の動作を見極めるなど達人でさえ苦労するだろう。

 せめてもの情けで一撃で沈めていくのは未だ数が多いからであり、手加減して自身や馬車の護衛に万が一の事が起こらない為でもある。

 捕らえて引き渡せば奴隷として魔法契約で縛られた上に、強制労働の労力として連れて行かれるので少なからず報奨金が上乗せされるのだが、自身の安全には変えられない。


「ヒィッ、こいつ化けもんだ」

「殺される!」


 人数を同数まで減らした所で戦意を失った者から昏倒させていき、数分後には倒しきっていた。


「助かりました、我が主が礼を述べたいと申しておりますのですが……」

「当然の事をしたまでです、それよりも怪我人の方は」

「現在治療中なのですが流石に旅の途中、薬師や治療術士もおりませんので」

「ならば先にその方々に此れを、私の持ち物ですので遠慮なくお使い下さい、こちらを使ってから、この血止めと傷の治療薬を使えば問題ありませんよ」

「おお、有り難い」


 治療術まで使える事を他人に知られるのであれば、持ち前の薬を数個分けるぐらい全く問題ないと判断しての行動なので『若干申し訳ないな』と思いながらも、ノートはバッグの中に手を突っ込み治療薬を取り出した。


「おお、これはポルトホルトの薬剤ギルドの商品ですか」

「ああ、そこで冒険者やってるからね」


 有名になっているのは勿論ノートの活躍によるもので、資金援助だけでなく医療薬を自分で開発し、別人になりすましてポルトホルト印の医療セットとして販売しているのである。


「妾を放置とはどういうことなのじゃー!」


 出てきたのはロリババアぽい喋り方をする、天然リアルロリっぽい女の子だった。

 ノータッチなノートからすれば残念なのが出てきたなと思うぐらいである。

 まあこれでリアルロリババアだったら笑い転げる危険性があるだけだろう。


「礼を述べたいと伝えたのじゃ、あれ伝えたはずじゃよな」

「お嬢様、確かにお聞きしましたが、先ずは護衛の者達の治療をして下さったので御座いますれば」

「おおーそうか、それは重ね重ねありがたいのじゃ、感謝感激なのじゃ」


 これで天然ロリじゃなくリアルロリババアだったら頭の弱い方になると判断したノート、だいぶ失礼な判断ではあったが間違いではない。


「お気になさらず、たまたまこの付近に通りがかっただけですので」

「ふむ、殊勝な態度といい、気に入った妾のものとなれ」

「お断りします」

「なぜじゃー」


 驚愕するロリ(仮名)が叫ぶのに対して冷静に従者の方が答えてくれた。


「名前も聞いていないお嬢様の下に仕えて下さる方はいらっしゃいませんな」


 なかなか従者もはっきりと告げる所をみれば良き主なのだろう。

 が、従者の仰る通りである、ノートとしては名乗られようが宮仕えなど御免被りたいところであるが間違いとも言い難い。


「妾は此れでもちょっとした身分でその、なんというか名前は明かせんがお買い得物件なのじゃ」

「説明になっておりませんな……」

「私はノート、家名は御座いません唯の冒険者でございます。このような栄誉あるお誘いを頂ける身分では御座いませんし、何よりも一角の冒険者になるべく現在修行の身ですので」


 丁寧にお断りしたのだが一瞬にして泣き顔になったロリ(仮名)お嬢様はヒッグヒッグと啜り泣きしだした。


「わ…妾ば、(ヒッグ)ごわがった、怖かったのじゃ(ヒッグ、ヒッグ)、ごれがら…まだダビがちゅじゅくのに、まだ襲われだらど思うど怖いのじゃ~(ヒッグヒッグヒッグ)」


 終いには鼻水を垂れ流す始末である。

 そもそも、それなりの身分の方々にしては少々護衛も少ないのだが、本人の着ている服を見る限りは確かに仕立てのいい物だし貴族以上だと思われた。


「どちらにせよ一度ポルトホルトに行かなくてはこの山賊の始末もできませんしね、まずは其処まで行きましょう」

「づいでぎでぐれるのがや?」

「お嬢様、此方を」


 もう少し早く差し出してあげて頂きたいものだとノートも思ったがロリ(仮名)お嬢様も同様の思いだったようだ。

 今更か!? とジト目で従者を睨んでいた。


「(チーン)付いて来てくれるかや」

「まあとりあえずポルトホルトへ、其処からは私は冒険者ですから指名依頼でも入れば受けるでしょうね」

「判ったのじゃ!」


 まさかこの出会いが切欠になって、そのまま人生設計のやり直しを迫られるなどとは、今のノートには流石に考えられなかった。

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